(黒神真黒)(日之影空洞)


「ポニーテール!」

「なんの!こっちはツインテールだ!」

「何してんだお前ら……」

「あ、おはよう日之影くん」

「遅かったじゃないか」

「少し生徒会の仕事が立て込んでてな」

教室を開けた日之影に気付いたなまえが呆れたようにこちらを見る彼に手を振るが、日之影は静かに自分の席についてしまう。
何をしてるんだ、といった表情で日之影はなまえと真黒を見るが、真黒に関してはそう言われるのは仕方ないと言えた。
なまえは自身の長い髪を一つに結っていて(いわゆるポニーテールというやつだ)、対し、真黒はその紫の髪をなまえと同じくらいの高さで二つに結っていた。
逆ならまだ納得がいったが、それはないだろうと日之影はため息をつく。

「いや、お互いに髪が長いねって話をしてたらいつの間にかこんな展開に」

「でも三つ編みもいいよね」

「結ぶの早いな」

なまえの三つ編み発言にそちらを見ると、先ほどまでポニーテールであったなまえの髪型は三つ編みの二つ結びへと変わっていた。
普段の髪型と全く違うのでなんだか新鮮だなと思いながら日之影は二人を見る。

「お団子もいいと思うよ」

「お団子は崩れやすいからするのが面倒じゃない?」

「それもそうだね」

そう言ったあと、触れるまでもなく真黒のお団子は崩れてただのポニーテールへと変わってしまった。
しかし別にそれでもいいのか、真黒はじっと日之影を見る。

「そういえば日之影くんも髪長いよね」

「ああ。そうだが…」

「ポニーテールとか」

「いや、ツインテールでどうだ」

「誰がするか」

なまえと真黒が同時に両手を前に差し出したが、日之影は静かにため息をついた。
確かに髪は長かったが、日之影は別にその髪を邪魔と思ったことはない。
というか美容院に行ってもその異常性のせいで美容師の人に気付いてもらえないので、切ってもらえなかったというのもある。
まあ今は生徒会のことで忙しいということもあり、自分で切るのもサボっているわけだが。

「うーん、僕も髪を切ろうか悩んでいるところなんだけど、美容院に行く気になれないんだよね」

日之影が考えていることがわかったのか、真黒も困ったように方を竦めた。
その言葉をきいて、なまえは少し考えるといいことを思いついた、とでもいうように笑みを浮かべる。

「宗像くんに切ってもらうっていうのは?」

「首をかい?」

「即死だな」

いい考えだと思ったことを即効で却下されたので、なまえは不貞腐れたように自分の席に座った。
なまえの髪型はいつの間にか三つ編みから普段の髪型に戻っていたが、真黒はポニーテールのままである。
結局そのままの髪型で一日の授業を終えた真黒は、「これは集中出来るかもな」とポニーテールが気に入ったようであった。

「日之影くんも髪結ってみなよ。結構いいもんだよ」

「まあ家では一つ結びにしてるときもあるが…」

「長髪ブラザーズだね!」

「トリオだよなまえちゃん」

同じ血なんて一滴も通ってないだろ、と真黒は呆れたようにツッコミを入れる。
その冗談か本気かわからないなまえの言葉に日之影は絶句するが、なまえならしょうがないかと本日何度目かわからないため息をついた。

「名字。英語はちゃんと教えてやるからあまりわけのわからない使い方はするな」

「うん。気をつけるね」

「天然なのかバカなのか、なまえちゃんは危ういところだね」

「え、もしかしてバカにしてるの?」

「この状況下でどうやってなまえちゃんを褒めるのかが僕にはわからない」

「え、黒神くんって天才解析者でしょ?」

「僕にも限界はあるってことをぜひとも知っておいてほしいかな」

そんなことを言っている間にも、なまえと日之影は帰る準備を終わらせて席から立ち上がった。

「朝の話に戻るんだけど、この学園って人いっぱいいるんだし美容師の一人くらいいないのかな?」

「何?なまえちゃんもしかして髪切っちゃうの?」

「ううん。なんとなく気になっただけだよ」

「髪が伸びたり縮んだりする奴なら見たことがあるぞ」

「え、何それ日本人形?」

「怖い話の読みすぎだよ」

「英語を教えたとしても名字の思考回路はどうにもならなそうだな」

「そこがなまえちゃんのいいところじゃないか」

「お前も大概だがな、黒神」


壊し損ねた悩みの種


(日之影くん最近ため息多いけど大丈夫?)
(これは僕達に幸せを分けてくれてるんだよ)
(なんだか黒神が原因でもありそうな気がしてきた…)



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