(宗像形)
誰もいない屋上で、宗像は一人刀を磨いていた。
後ろで静かに扉が開いたが、宗像は振り返らずにその手を動かす。
「よっ宗像。今日も武器の手入れか?」
「暇だからね」
「ふーん…」
静かに現れた高千穂に、宗像は驚くこともなく静かに呟いた。
こちらを向こうともしない宗像に怒ることもなく、高千穂はベンチに座らずフェンスへと近寄る。
そこから、グラウンドが見下ろせた。
「僕に何か用か?」
「ああ、名字が呼んでたぜ」
「っ!?」
がしゃんっ、と宗像の手から刀が滑り落ちる。
いい音を鳴らして地面と衝突した刀を拾うことなく、宗像は驚いた顔で高千穂を見上げるだけ。
高千穂は呆れたような笑顔で宗像を見つめていた。
その表情を見て、コホン、とわざとらしく咳払いする。
「い、行ってくるから場所を教えてくれないか」
「あ、なまえだ」
「何っ!?」
拾いかけた刀を再び地面に落とし、宗像はその自慢のスピードで一気にフェンスへと近寄った。
というより勢いがつきすぎてぶつかりにいったようなものであった。
そんな痛みも気にせず、フェンスに掴まりながらキョロキョロとグラウンドを見下ろす宗像。
高千穂はそんな宗像から少し離れると、半笑いで口を開く。
「嘘だよ宗像」
「…………………」
「あっぶね!!」
高千穂が立っていた場所に、銃で撃たれたようなあとが出来ていた。
微かに煙立つ地面を見つめて高千穂は焦ったように後退する。
「おい、軽い冗談じゃねえか…!」
「ああ。そうだな。だから殺す」
「ここは地下と違って音も外に駄々漏れだし他の生徒に気付かれたらやばいだろ!な!?」
「安心していい。サイレンサーはちゃんと持っている」
「そういう意味じゃねえよ!」
カチャカチャとサイレンサーを銃へ装着している宗像を見て、高千穂は首を横に精一杯に振る。
そうして宗像の両手に握られた二丁の銃に、高千穂は「一丁じゃねえのかよ!」と撃たれた一発を静かに避けた。
再び撃とうと引き金に指をかけた瞬間、屋上への扉が勢いよく開く。
バンッ、と開かれた扉に、二人とも驚いてそちらを向いた。
「いったあ!!」
「……名字?」
「あ、高千穂くん!宗像くんも!」
手を痛そうにさすっているなまえは、二人を見て嬉しそうに笑みを浮かべる。
宗像が手にしていた拳銃は二丁とも地面に落ちていて、呆然となまえを見つめていた。
「痛いって…それにさっきの扉の開け方どうしたんだよ」
「え、うん。あの扉なかなか開かなくて体当たりしてみたんだよね」
「『してみたんだよね』ってお前なあ……」
呆れる高千穂に笑顔を向けながら、なまえは二人に近づいていく。
ふと地面に落ちている刀と拳銃を見て、宗像へと視線を移した。
「あれ、宗像くん。また刀とか落ちてるけど…もう大丈夫になったんじゃなかったっけ?」
「え、あ、ああ…これは置いといただけだから気にしなくていい」
「嘘つけ」
「何か言ったか?」
「何も言ってねえからその背中に隠しきれてない鈍器をしまえ!」
なまえが地面に落ちている刀を拾っている間にいつの間にか槌を持っていたらしく、それを背中に隠しているがどうも隠しきれていない宗像。
高千穂は勘弁とでもいうように後ろに数歩さがり、宗像は無表情のまま槌と地面に落ちた銃を元の場所へしまった。
「で?なまえ。僕を呼んでたって何か用があったのかな」
「え?呼んでたって?」
「………………」
「……冗談通じないのなお前」
なまえから受け取った刀を振るうが、当然のごとく高千穂はそれを避ける。
「でも、宗像くんならここにいると思ったよ」
「え?」
「最近会ってなかったから元気かなーって思って様子見に来たんだ。迷惑だったかな?」
「め、迷惑だなんてことはないけど、その、えっと」
「宗像お前やっぱり…」
「?なんだ高千穂?」
ニヤニヤと笑う高千穂に、宗像は眉間に皺を寄せて刀に手をかけた。
しかし宗像の攻撃に当たらない反射神経を持っていると自負している高千穂は余裕の笑みのまま口を開く。
「そういうのなんて言うかしってるか?」
「は?」
「恋だよ恋。この言葉の意味も教えた方がいいか?」
「なっ―――!?」
ガシャガシャガシャ、と宗像の制服の中から地面へとたくさんの武器が重力に逆らうことなく落下していった。
どこにこんな量をしまいこんでいたのだろうとなまえは唖然と未だ絶えることない落ちていく武器たちを見送る。
そして動揺する宗像は、高千穂へ攻撃するのも忘れて口を開いた。
「ち、ちち違う!これは!そういうものじゃ―――!」
取り乱した宗像をあざ笑うかのように、高千穂はフェンスを乗り越え壁を伝って下へと降りて行ってしまう。
後に残された宗像は混乱する頭で散乱した大量の武器と呆然としているなまえを見比べた。
「…………まさか、ね…?」
これは恋じゃない
(僕は絶対に認めない!!)