(宗像形)
「あ、宗像くんみっけ」
「?」
時計台へと向かう宗像の背後から、綺麗な高い声がかかる。
自身の名前を呼ばれた宗像は何の用だと振り返った。
「これ、また落ちてたよ」
「ああ……」
なまえの手に握られていた手榴弾を見て、宗像はそれをしまっていたはずの場所を探り、無いことを確認する。
そして数歩なまえに近づき、手を伸ばした。
瞬間。
「わっ、と」
なまえが慌てたように手を引っ込め、後ろへ下がる。
しかしそんななまえの行動に宗像は何も言わず、無表情のままじっとなまえを見つめていた。
「宗像くん、今度はナイフ落としたよ?」
「ああ。すまない」
なまえが先ほどまで立っていた地面に数本のナイフが突き刺さっているのを見て、なまえは笑顔でそれらを拾う。
宗像は特に何も思っていないのか、それを無表情で見下ろしていた。
そのナイフをじっと見つめ、何かを思いついたように顔を上げる。
「ああそうだ。この後暇なら僕に付き合ってくれないか?」
「…?別にいいけど」
突然の誘いに、なまえは首をかしげながらそれを承諾した。
「どこか行くの?」
「いや。特には決めてない」
「うーん、じゃあ駅前にある喫茶店とかは?」
「悪いけど人がいるところは行きたく無いんだ」
仮にも指名手配犯であるということを知らないなまえは、宗像のその言葉にきっと彼は人ごみが苦手なのだろうと納得する。
彼は"人が多いところ"ではなく"人がいるところ"と言ったのだがその違いに気付いている様子はない。
「え?んー……人がいないところかー」
「教室はどうかな。いつも君が勉強してるんだろう?」
「うん。宗像くんは授業には出ないの?」
「僕は他にやることがあるからね」
そっか、と頷いてなまえは歩き出す。
平然と宗像に背中を向けたなまえに宗像は一瞬顔をしかめるが、そのまま後ろをついていくことにした。
「へえ……ここが君の席か」
「うん。で、黒神くんがあそこで日之影くんかそこ」
「日之影?」
教室に到着したなまえと宗像は誰もいないそこを観察する。
宗像はなまえの席に座ると、静かに黒板を見つめた。
「宗像くんは座るならどこの席がいい?」
一番前の真ん中の席に座り、笑顔で宗像を振り返る。
40個ほどずつある机と椅子。
その中で席が確定しているものは3つだけ。
宗像はそのまま目線だけを動かして教室内を見渡し、目を閉じた。
そして笑うことなく目を開く。
「別にどこでも構わないよ。ただ僕としては君の後ろがいいかな」
「私の……?」
宗像の言葉を聞いて、なまえは自分がいつも座っている席を見た。
そこには今宗像が座っていて、どうしたものかと困った表情を浮かべる。
「私の後ろに机は無いからそれは無理かなー」
「一度決定した席は変えられないってことか…なるほど。学校というものはそういう所みたいだね」
「え?いや、別に…席替えとかもあるだろうし」
「じゃあその席替えのときに僕は君の後ろの席になれるのかな?」
「うーん、まあ決め方にもよるだろうけど、まあ宗像君がそこの席が良いっていうなら変わってあげてもいいよ」
なまえは立ち上がり、宗像の前の席に横を向きながら座ると笑みを零した。
宗像は目の前になまえが来るとは思ってなかったのか、驚いたようになまえの顔を凝視している。
そんな宗像の視線も気にせず、なまえはゆっくりと前を向いてきちんと着席した。
二人以外誰もいない教室。綺麗な黒板。誰も立たない教壇。
なまえは宗像に背を向けたまま、静かに口を開いた。
「ここでこうやってみんなと授業が受けられるといいなあ」
「…やめておきなよ。あんなのが全員授業を受けていたら、面倒なことになる」
「そうかな。それはそれで面白いと思うんだけど」
「そうかい。まあ好きにすればいい。あとやっぱり君の後ろはやめておくよ」
「え?なんで?」
宗像はゆっくりと椅子から立ち上がり、首を傾げたままこちらを見上げるなまえを無表情で見下ろした。
「間違って恋に落ちそうだからだ」
隠し切れない殺意
(ナイフが地面に落ちたみたいに、それは意図も簡単に)