(生徒会)


「ふむ。きちんと名字三年生には伝言を伝えておいたからな」

「ありがとうめだかちゃん!」

「にしてもそれだけのために生徒会室を貸して良かったの?」

「まあそう言うな喜界島会計。今まで私に力を貸してきてくれた善吉の頼みだ。大目に見てやろうではないか」

嬉しそうな人吉を見て、めだかと喜界島はそっと笑みを零した。
場所は生徒会室。
他のメンバーは居ないのか、この三人の姿しか見えない。

「しかしバレンタインのお返しなど、普通に教室へ行って渡しに行けば良いではないか」

「あのな、めだかちゃん。十三組に俺単体で乗り込んで生きて帰れると思うか?」

「瞬殺だね」

人吉の消え入りそうな言葉に、喜界島は一瞬でその光景が想像出来たらしく納得するように頷いた。

「まあいい。では私は先に帰るから終わったらきちんと鍵をかけておけ」

「生徒会室汚したらきちんと掃除しておいてねー」

「汚しませんよ!!!!」

喜界島の言葉に怒鳴る人吉であったが、喜界島とめだかは笑いながら生徒会室を後にする。
そんな二人を見送ってからため息を吐き、パタン、と後ろ手に扉を閉めた。
そして普段自分が座っている席の上に置かれた箱を見下ろしたりうろうろしたり深呼吸をしたりしていた。

「『どうしたの?善吉くん。そわそわして』」

「!!!い、いつの間に後ろに…」

「『高貴くんもいるよ』」

「やあ」

「『やあ』じゃない!な、なんであなたたち二人がここに…」

生徒会室で1人そわそわとしていた人吉善吉は、突然の来訪者に驚き慌てる。
今日は生徒会の仕事は無いので、自分以外の誰も来ないと思っていたのだ。
しかし笑顔の球磨川と困惑した表情の阿久根を見て、そっと落ち着きを取り戻す。

「別に先輩達には関係ありませんよ」

「『ふーん。まあいいけど』」

「何しに来たんですか?」

「なまえ先輩にプレゼント渡しにきたんだ」

「は?プレゼント?」

プレゼントという単語を予想していなかったのか、善吉が驚いたように2人を見る。
と同時、阿久根と球磨川が袋を人吉の見える位置に出してきた。
球磨川が持つ小さな紙袋は、紙袋からして高級そうなもの。
対して、阿久根はそこら辺のスーパーで売ってそうなラッピングの紙袋。
人吉はそれを見て、目を丸くした。

「あんた達、なんで…」

「今日、ホワイトデーだよ。もしかして知らなかったの?」

「『なまえちゃんにお返しもしないなんて…、僕ちょっと善吉くんのこと軽蔑しちゃったよ』」

「だ、誰もしないとは言ってないだろ!俺だって一週間前から飴をだな……」

「『わぁ。用意周到だね』」

驚く球磨川に、人吉は顔を赤くしながら反論する。

「た、たまたま生徒会の仕事で商店街の店を調査してるときに目に入ってたまにはいつも愚痴を聞いてくれるなまえ先輩に買おうかと思っただけであって俺は別に」

「……仕事中に浮かれすぎだよ」

「『ていうかもしかして善吉くんってばなまえちゃんがバレンタインにチョコあげたのは自分だけだと思ってたの?』」

「―――――!」

「へぇ、そうなんだ。俺は逆に人吉くんにはあげでないと思ってたんだけど」

球磨川の質問に図星をつかれたのか、人吉が絶句したように口をパクパクとさせていた。
それを見て、阿久根は鼻で笑うように人吉を見下す。
何か言い返そうとしたが、球磨川が勢いよく生徒会室への扉を振り返ったので二人ともそちらへ気をとられてしまった。

「『なまえちゃんだ』」

会まだ誰も姿を現していない玄関の方を球磨川は振り返る。
首を傾げて阿久根と人吉は顔を見合わせるが、球磨川は笑顔のままじっと扉を見つめていた。
そして、ゆっくりと扉が開かれる。

「人吉くーん?、って阿久根くんと球磨川くんも」

「『僕はなまえちゃんの一番の親友だからね!なまえちゃんがいるところにはどこにでも参上するよ』」

「それってストーカー発言ですよね球磨川さん」

「………ごめんなさいなまえ先輩」

何故か謝った人吉に首を傾げながら、なまえは3人へと近付く。
しかし人吉より先に、阿久根がなまえへと先ほどの袋を差し出した。

「これ、バレンタインのときのお返しです。新しく駅前に出来たデパートで美味しそうなものが売っていたので買ってみました」

「え!いいの!?ありがとう!」

「いえいえ。友チョコとは言え、なまえさんのお気持ちは嬉しかったですから」

「ほんと、阿久根くんってば色んな女の子から沢山貰ってたからあげようか悩んじゃったよ」

なまえの言葉に苦笑いを零した阿久根だったが、お返しをなまえに喜んで貰えたようでほっと胸を撫で下ろす。
そして口を開きかけた球磨川より先に、人吉が口を開いた。

「俺からはこれです。商店街で見つけた飴細工なんですけど…」

「ありがとう人吉くん!」

「友チョコなら友チョコって言って下さいよ……俺、こういうのあんまり慣れてなくて」

「すぐ隣で日向くんにも私あげてたんだけど」

「バレンタインという日にチョコを貰えた一般男児の浮かれ具合をなめないで下さい!」

「なんで怒られたの私……」

綺麗な箱に入った飴細工を受け取り、丁寧に自分が持っていた紙袋の中へしまう。
その中には他にもお返しで貰ったものが入っているのだろうかと球磨川はそっと中身を覗き込んだ。

「球磨川くん…無かったことにはしないでね?」

「『えー、うーん。そうだなあ、しないよ!』」

パッと紙袋から離れる球磨川。
人吉と阿久根は呆れたように球磨川を見ているが、なまえは対して気にしていないらしい。

「『………まぁ、他の人のお返しより僕のお返しの方が絶対喜んでくれるけどね』」

「何?」

「へえ…?」

球磨川の言葉に、人吉と阿久根が少しキレたように球磨川を見る。
しかし球磨川は2人の視線を無視し、なまえへと紙袋を手渡した。

「球磨川くんまで…ありがとう!」

「『あはは。友達だしね。お返しは当たり前だよ』」

「球磨川。中身はなんだ」

人吉が、なまえが持つ黒い紙袋を指差しながら訊く。
阿久根も無言のまま、教えろ、といった雰囲気を醸し出していた。
球磨川は笑顔のまま少し悩んだあと、とても良い笑みで口を開く。

「『エプロンだよ。友人としてなまえちゃんの裸エプロンはしっかりと見ておかないと!』」

「え!」

「は!?」

「……………」
球磨川の言葉になまえは驚き固まり、人吉は信じられないといった様子で球磨川を見て、阿久根は絶句にしていた。

「『きっと気に入ってくれるだろうと思って』」

「なまえ先輩を変な目で見るんじゃねええええ!!」

人吉の絶叫が、生徒会室内にこだました。


やっぱりこれは譲れない


(く、球磨川くん…気持ちだけ、受け取っておくよ……)
(流石のなまえ先輩もこれには絶句してるぞ球磨川…)
(少なくとも友達にあげるものではありませんね)
(『何言ってんだよ−十三組では親友には裸エプロンを見せる決まりなんだぜ』)
(先輩今すぐ球磨川と友達やめて下さい)



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