(長者原融通)(大刀洗斬子)


『はたらかない』の文字がこちらをじっと見つめてくる。
そんなことも気にせず、なまえは美味しそうに紅茶を飲んでいた。

「どお〜?美味し〜い〜〜〜?」

「うーん……私にはちょっと」

「不味いですね」

「う〜ん…ちょっとイラっときた〜〜〜」

そのゆっくりとした喋り方から想像つかないほどのスピードで投げられた枕を、長者原は平然と片手で地面に叩き落す。
なまえの隣に座っている長者原は既に紅茶が入ったカップを机の上に戻していて、なまえもそっとカップを置いた。
『はたらかない』というアイマスクをした大刀洗はソファで寝転がったまま両足をバタバタとバタつかせる。

「んも〜せっかく紅茶淹れてあげたのに〜〜」

「ですからわたくしめが教えてさしあげると言っているではありませんか」

「絶対やだ〜」

「はあ……なまえさん少しお待ちを。今淹れなおしてきますので」

「あ、ありがとう」

長者原がカップを持ちソファから立ち上がってその場から消える。
不貞腐れたように長者原が座っていた場所を見るが、はあ、とため息をついて全身を投げ出すように大刀洗はソファに沈んだ。

「なんかなまえ先輩には甘いですよね〜」

「十分斬子ちゃんには甘いと思うけど」

「そんなわけないじゃないですか〜だって彼はどうしようもなく公平なんですよ〜〜。だからさっきも委員長の私にズバッと不味いって言ってましたし〜委員会的にはいいですけど友達にはなれませんよね〜〜」

「でも長者原くんって雲仙くんと仲良いよね?」

「へ〜そうなんですか〜〜?」

先ほどまで大刀洗が装着していた『はたらく』と書かれたアイマスクが机で力なく横たわっているのに視線を送りながらなまえは大刀洗と会話を続ける。
どうやら今しているアイマスクもきちんとこちらが見えているらしく、大刀洗もそのアイマスクを寝転がりながらなんとも思ってない風に見つめていた。

「でもでも私としてはなまえ先輩とこうして仲良くお茶できる仲になっただけで〜凄い嬉しいんですよ〜〜。なまえ先輩と会えるなら毎日ちゃんと学校に来ますし〜〜〜」

「ああ、そういえば斬子ちゃんも登校義務免除されてるんだっけ」

視線をアイマスクから大刀洗にうつし、思い出すように呟く。
長者原ほどの異常を従えるといっても長者原ほどの能力の持ち主とは思えないし、恐らく何らかの実績を残したとしても特例クラスであり、登校義務は免除されなかったであろう。
しかしなまえは別に気にしてないという風に、静かに紅茶を持ってきた長者原を見上げた。

「どうぞ」

「ありがとう」

「ありがと〜」

「なまえさんとこうしてお茶できる仲になって喜んでいるのは委員長だけではありませんよ。わたくしめとしてもとても喜ばしいことです」

「それ〜私のおかげってこと忘れないでよね〜〜」

「ええ。勿論です」

そうは言うが、長者原が静かに座った場所は先ほどよりなまえに近い場所であった。
というよりも、もう肩と肩がくっつく程の距離。
それに驚いたなまえであったが、何か言う前に大刀洗が立ち上がる。あの大刀洗斬子が―――立ち上がることを誰も目撃したことがないと言われている眠り姫である彼女が、意図も簡単に立ち上がったのだ。

「ずるい〜私も隣に座る〜〜」

「えっ、ちょっ、このソファに3人は……」

「大丈夫大丈夫〜」

そう言うと半ば無理矢理なまえの左隣に座り、なまえも大刀洗に気を使って右側に少しずれる。
しかし長者原はそこをずれようとしない為、二人に密着する形になってしまった。

「……暑くないの?」

「ん〜暑いなら長者原くんがどけば良いと思うよ〜〜」

「いえ。ここは公平に委員長がどくべきでは?」

「どこがどうやって公平なの〜」

大刀洗は座るというより完全になまえに寄りかかる形で、なまえがどいてしまえばその場に即効寝転がってしまうくらいになっている。
長者原は平然と自分で入れた紅茶を飲んでいて、なまえも目の前にある紅茶を取ろうとしたが少しでも動けば大刀洗が倒れてしまいそうなので動けないでいた。

「はい、どうぞ。委員長のせいで配慮が足りなくて申し訳ありません」

「あ〜今喧嘩売ったでしょ〜〜私のも取ってくれたら許してあげなくもないよ〜」

「先ほど立ち上がられたのですから同じようにしてご自分でどうぞ」

「ちょっと〜私たちが仲悪いみたいに思われるじゃな〜〜い」

「しかし委員長はなまえさんと違ってわたくしめと友達にはなれないのでしょう?」

「き、気にしてたんだ……」

「いえ。そんなことありませんよ。あ、クッキー食べますか?」

「ありがとう…」

「あ〜私もなまえ先輩にクッキー食べさせたいのに〜〜」

長者原にクッキーを口元まで運ばれ、戸惑いながらもなまえはそれを口に含んだ。
それを見て、羨ましそうに大刀洗が身を乗り出す。
そしてだるそうなままクッキーを取るとなまえの口元にそれを差し出した。

「うーん…後輩にされるのって結構恥ずかしいんだけど……」

「え〜じゃあ同い年ならいいってことですか〜〜?3年生が調子に乗りますよ今の発言〜〜〜」

「わたくしめとしては恥ずかしがっていただけるのはかなり嬉しい反応ですが」

「そういうの素直に言っちゃうところらへんが長者原くんらしいというかなんというか〜」

眉を八の字に曲げながら、なまえはクッキーを再び食べる。
委員会室にあるには美味しすぎるお菓子に羨ましいと思いながらも再び紅茶を口に含む。
先ほど大刀洗が淹れたものと同じ茶葉かと疑問に思うほどにそれは美味しいもので、友人に淹れてもらったというよりは少し良いところの喫茶店で淹れてもらったかのような味に驚きを隠せない。

「じゃあ〜今日は一緒に帰りましょうね〜なまえ先輩〜〜」

「帰るって…斬子ちゃん歩いて帰るの?」

「いえ。いつも委員長が登校するときはわたくしめ達で登下校のお手伝いをさせていただいております」

「あー、一回朝会ったことあるけどあれがそうだったのね」

「ご希望でしたらなまえさんのお手伝いもさせていただきますよ。わたくしめのご友人ですし他の委員達が断ってもわたくしめがお手伝いさせていただきますので」

「あ〜それ賛成かも〜〜そしたら私と長者原くんとなまえ先輩の3人で仲良く登下校出来るもん〜」

この前の朝出会った複数の黒子と、彼らが担ぐ板の上で寝ている斬子を見たのを思い出し、なまえは苦笑いを浮かべた。

「別に一緒に登下校するのは構わないけど私は彼らと一緒に歩くよ?」

「いえ。わたくしめが背負っていきますのでご安心ください」

「何言ってんのそれじゃパンツ丸見えじゃ〜ん」

「では横抱きで構いませんか?」

「うーん、やっぱり一人で登下校しよっかな」


公平不在


(あ〜もう長者原くんのせいだからね〜〜)
(何故ですかとても良い案でしたでしょう)



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