窺う様に「悪かったな」
by Maki
入社5年目。
それなりに重要な仕事も任されるようになって。
それなりに充実もしているけれど。
それに比例して残業も多くなった。
そして今日も。
既に会社には私以外誰もいない。
別に家に帰ったからって待っている人がいるワケでもないし、別にいいんだけど、やっぱりふとした時に寂しくなる。
ここ数年、彼氏と呼べる相手もいなくて、婚期もどんどん遅れている。
・・・・今、こんなこと考えても仕方ない。
とりあえず早く仕事を片付けて帰ろう。
早く帰ってお風呂上りにビール!ビール!!
明日は休みだし、次の日のことを気にせず思いっきり楽しむんだから!
あ。やっぱワインにしようかな・・・。
そんなことをチラリと考える。
・・・最近の楽しみといったら、これくらいで。
ホント寂しい女だよ、私。
とにかく早く仕事を終わらせようとパソコンのキーボードを叩く手も早まる。
「お。佐藤か。お疲れ。まだ残ってたんだな。」
社内には誰もいないと思っていたのだが、誰かに後ろから声をかけられ、声のした方に振り向くとそこには、3年先輩の牧さんが立っていた。
『あれ?牧さん、お疲れ様です。どしたんですか?もう帰られたと思ってました。』
「あぁ。今、出先から帰ってきたとこ。」
『あ、そうでしたか。お疲れ様です。』
牧さんと軽く会話をして、再び自分の仕事に取り掛かる。
牧さんは社内でもいわゆる仕事の出来る男だ。
上からも下からも人望が厚く、最近では重要な商談なども任されているようだった。
そんな牧さんとは同じ部署の先輩ってだけで、私とは特別親しい間柄ではない。
でも少なからず、私は牧さんに小さな憧れを抱いていた。
「佐藤。」
また不意に牧さんに声を掛けられた。
『はい。』
「仕事、あとどれくらいかかる?」
『えっと・・・30分くらいですかね・・・。』
「んー。じゃあ俺も手伝うからあと10分で終わらせよう。」
『えっ?いいです、いいです!私、大丈夫なんで!牧さん、お先にどうぞ!』
「いや・・・そうじゃなくて。・・・この後飲みに行かないか?」
『は?』
「あ!先約あった?」
『いや、ないですけど・・・。』
「じゃあ決まり!で?俺は何すればいい?指示して。」
え?牧さんって・・・こんな人だっけ?ちょっと強引?
こんなフランクだった?
今、目の前にいる彼は、自分が思い描いてた人物像とはちょっと違う印象だった。
もっと・・こう。紳士っていうか。
落ち着いてて、大人な男性っていうか、間違ってもこんな誘い方はしなさそうだと勝手に思っていただけに、正直驚いた。
だけど実際、牧さんに誘われて嬉しいと思った自分もいて・・・。
こんなチャンス、もうないかもしれない。
私は牧さんの言葉に甘えてみることにした。
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