サディスティック



日曜日のよく晴れた昼下がり。
今日は久々に練習もなく丸一日オフで、いつものようにうるさいベルの音に悩まさることなく、のびのびと気持ち良く目覚めることが出来た。


「ふぁぁ〜……まだ、来てないか……」

まだハッキリとしない頭で思考を巡らせてみると、ふと今日の予定を思い出して小さく独りごちる。
今日は彼女である静が、俺の独り暮らししているアパートに遊びに来る予定になっていた。
時刻が少し気になって、部屋の壁に掛けてある時計へ目を配ってみる。
約束の時間を少しだけ過ぎていたが、俺は特に慌てることもせず、上下スエットのまま。

とりあえずベッドからのそりと起き上がって、ポリポリと腹を掻きながら冷蔵庫へと向かいペットボトルの水を一本取り出すとおもむろにキャップを開け、中身を口に含んだ。


「あぁ……ねみ……」

寝ても寝ても眠い。
若さ故もあるだろうが、毎日ハードな練習のせいもあるだろう。
学校へはほとんど部活をしに行っているようなもので、サボろうにもうちの部には面倒見の良い奴らが揃っているからなぁ。参っちゃうよね。


ピンポーン……ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!

「あきらー!?いるんでしょう?開けてよ、早く!」

突然、家のインターホンが鳴った……と思ったら空かさず連打、そしてどんどんとドアを叩く音。大きな声。
ああ、お姫様の登場だね。
ハイハイ、今開けますって、そんなに興奮しないで。うちのお姫様は気性が荒くて困っちゃうね。本人には口が裂けても言えないけれど。


「もぉ、いつも玄関でうるさくしないでって言ってるじゃん。隣の人に迷惑でしょ?」

「彰が早く開けないから悪いんでしょ。それより、あんた、まだ寝てたの?」

「ん〜……でも、今日は休みだからさぁ。ノンビリいこうよ、ね?静ちゃん」

「ふざけないで!早く起きろ!着替えて!ちゃんとして!窓も開けて空気も入れ替える!早く!」

そう言って静は俺の頭をパシッと叩くと、ズカズカと部屋の中に入り込んでベランダの窓へ一直線。
さっきまで穏やかな休日の雰囲気を満喫していたのに、一気に静のペースだ。

……まぁ、いつものことなんだけどね。仕方ない。

そう、彼女は正真正銘S基質の女の子。
言葉使いも、性格も、全て。
そういうのも全部含めて、俺は静が好きだった。
でもね、静ちゃん、俺もそうなんだよ。
分かっていると思うけど……。


俺の部屋の中には、特別これといって面白いものも、することもない。
けど、いつも静は俺の部屋へ来たがる。
以前気になって、なぜかと彼女に尋ねてみたら、「別の場所で待ち合わせにしちゃうと、彰は絶対に時間通りに来ない」と言われた。
「間違いないね」と返すと「自覚があるなら直せ!」とまた頭を叩かれたのは記憶に新しい。

結局うちで一緒に過ごす時は、大抵いつも各々が好きなことをやって時間を過ごしていた。
現に今だって俺は床に胡座をかいて座りバスケの専門雑誌をなんとなく流し見しているし、静はベッドの上でうつ伏せになりながら漫画を読んでいる。
それが楽しいのか?と問われれば、俺は別に特別楽しくもないけれど……それでも彼女はやっぱり俺の家に来たがるし、俺自身もそれを拒みはしない。


しばらくして俺は雑誌を読むのを一旦止めて、そっと机に置きながら静を横目でチラリと見やる。
どうやら彼女は完全に油断しているようだった。
鼻歌交じりにご機嫌さながら、漫画に夢中。

俺はニヤリと笑みを浮かべながら、そのままベッドの静を目掛け、のそりとよじ登るように覆い被さってみた。
すると、彼女のシャンプーの爽やかな香りが鼻先をかすめる。静の存在をより近くダイレクトに感じて、それだけで気分が高揚した。


「わっ!ちょっ……なに!?」

「べつに〜?」

突然のことで静が動揺し、顔が俺のほうを向いた瞬間、半ば強引に自身の唇を重ねる。
初めは軽く戯れるように、次第により深く。
だんだんと静の息遣いも絶え絶えになり、鼻から甘い声が抜けてくる。

「んっ……あ、ちょ、っと……」

「シィ……もう黙って」

初めは驚きあまり乗り気ではなかった静も、真っ直ぐと彼女の目を見つめ至近距離で低く囁いてみれば、あっという間に顔を上気させ上目遣いで俺を見てくる。


「その表情、何人の男に見せてきたの?」

俺の言葉を聞き入れた瞬間、さっきまで甘い色香を纏っていた静の表情が一気に険しいものへと変わり、キッと鋭い睨みを俺に向けた。
そして、自身の下唇をギュッと噛み「あんた、最低」と、掠れた声で低く呟く。

やばいね、静ちゃん、それ……。
俺をどうするつもりなの。
その目、堪んない……。

ゾクゾクと気持ちが良いくらいの鳥肌が立つ。
そう、俺はこの表情が見たくてわざと彼女を怒らせる。
けど、きっと静も解っているんでしょ?
だって同じSだから……だから俺たちは上手くやれてる。

そして俺は、ゆっくりと静の服のボタンに手を掛けた。


「ちょ、ちょ、待って!おい!彰っ!やめっ……許さない!絶対!」

「大丈夫、大丈夫、さっきはごめんって」

「やだ!バカ!いい加減に……っしろ!!」

「うわっ、痛ぇ!」

今度は俺が油断した。相手が女の子だと過信しすぎた。
そうだね、相手は静だもんね。
彼女の強めの一発がまた俺の頭に飛んできて、鈍い音が脳内に響き渡った。

酷いよ、静ちゃん。
今度はグーかよ。
俺、可哀想じゃん。こんなに静のこと、大好きなのに。
今日はめちゃくちゃ可愛がろうと思ったのに。


「えぇ〜なんで〜?」

「あんた、バカでしょ?猿なの?」

「違うよ、静のこと好きなだけじゃん」

「違うね!貴様は歩く下半身か!ばかやろう!」

「うーん……静限定で、それは間違いじゃないかも」

「なにそれ……あははっ」

ああでもない、こうでもないと互いに主張しあっていたら、なんだかバカバカしくなって二人で顔を合わせてふふっと笑ってしまった。
静は怒った顔もセクシーで堪んないけど、笑った顔はもっともっと可愛いと俺は思う。

そして、もう一度。
仕切り直すかのように、再び蕩けるような甘い甘い口づけを……。
彼女の肩を包み込むように抱きしめ、「ね、お願い」と囁けば、静は「ああ、もう!仕方ないな。でも好き勝手にはさせないから」と妥協しつつ折れた。

そんなの知らないもんね。
俺だって、やられっぱなしはゴメンだ。

これからの時間は、俺の愛情たっぷりなサディスティックタイムにしっかり付いて来てね。
俺の愛に溺れさせてあげる。
だから、君も傷付くくらいの愛の証拠を俺に見せて欲しい。
楽しみにしているよ、愛しいサディスティックマイガール☆


(2018.6.5 Revised)


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