ロングラブの航海



《牧side》

人は誰でも“譲れない何か”を持っている・・・と思う。
それは目に見えるもの、目に見えないもの、人によってまちまちだと思うが。

斯く言う俺の中にももちろん“譲れない何か”があるわけで・・・。
現状として、俺にとってのそれは、【趣味】と【幼馴染】だ。

先ほど趣味と言ったが・・・俺にとって趣味とは、自分の好きなことをする時間を表す。
バスケであったり、サーフィンであったり。
自分が好きなことをする時間を誰にも邪魔されたくない、ただそれだけ。


一方。
幼馴染とは・・・言葉の通り、子供の頃からよく見知った人物。
しかしただの幼馴染ではない。
年齢は俺の2個下の女の子。
名前は佐藤静。

俺はその幼馴染のことずっと大事に思いながら今まで生きてきた。
幼心ながらその子を守るのは俺の役目だと疑わなかった。

こんな風に言ってしまうと少々言い過ぎで大袈裟に聞こえるかも知れないが、その言葉に嘘偽りは一切ない。
物心ついた時から自然な流れの中、俺はその女の子を“大事な子”と認識していたし、紛れもなく俺の初恋だ。


・・・そう・・・俺は彼女いない歴17年。ずっとその幼馴染に恋をしっぱなしというわけだ。

高校3年になった現在まで幼少期から抱いた恋心を大事に大事に胸の内に秘めて、誰にも明かすことなく、もちろん他に女なんて作らずずっと彼女だけを傍で見てきた。

自分がこんなにも奥手だったなんて正直気持ち悪いが、俺にとって2歳の年の差は思いの外大きかった。
去年まで静は中学生だったんだから。

いや・・・だって、2歳差ってことは俺が中学2年で静が小学生とか・・・ダメだろ?・・・ダメだよな?
まだまだコドモな静に手を出したりなんかしたら・・・静の親父さんに顔向け出来ないし。


・・・好きだけど・・・まだ早い。

そんな現実との葛藤と今までずっと戦っていた俺だが、やっと今年、静が高校入学を果たした。
しかも俺と同じ海南大付属に。

ずっと待っていた。静が高校生になる日を・・・。
彼女が成長して高校に入ったら折を見てこの想いを告げようと、もう何年も前からそう決めていた。


ようやく同じ土壌の上だ。
高校生になってしまえば半分大人の仲間入り。誰も文句なんて言わないだろうし、言わせない。

きっと静自身も俺のことを大事に思ってくれているだろうと思う。
それはもしかしたら俺が彼女に抱いている感情とはまた別の・・・単なる【兄】的ポジションのものかもしれないが、それでもまだ俺にも大いにチャンスがあると踏んでいる。

思春期真っ只中の女の子が未だに『紳ちゃん、紳ちゃん』と慕ってくる様子を見ていれば分かることだ。
だけどその度に俺がどんな気持ちでいるかなんて、きっと静は予想すら出来ていないだろう。

屈託のない笑顔で俺に微笑む度に、胸を鷲掴みにされたような・・・こんなことを言うと変態だと思われるかもしれないが・・・静に触れたくて仕方ない衝動に駆られてしまう。

手を繋ぎたい。抱きしめたい。・・・それ以上だって。

他の奴だって皆そうだろう?
好きな女が傍にいて、自分だけに微笑みかけて自分の名を呼ぶ。
言っても男子高校生。
俺だって男だ。


・・・とは言っても・・・必死に我慢するけど。
ヘタレでも何でもない。むしろこんなに我慢している俺を誰か褒めて欲しいくらいだ。

要するに静を怖がらせては意味がない。
しかし、この我慢がいつまで続くか・・・もう十何年も待ったんだ。

とにかく譲れない。
静のことは誰にも・・・。


《静side》

やっと・・・今年やっとの思いで海南大付属に入学出来た。
海南はこの辺りの高校の中だと少し偏差値が高くて、最後の最後まで私の頭だとギリギリのラインだと中学の担任の先生にも幾度となく言われて続けていたけれど、私は決して諦めなかった。

だって。
大好きな幼馴染が通う海南に私も絶対入学するんだ!とずっと前から強く心に決めていたから。

こんなことで進路を決めるなんてバカバカしいと思うかもしれないけれど、私にとってはものすごく重要なこと。
だから大嫌いな勉強も必死で頑張れたし、いざ海南への入学が決まった時は飛び跳ねて喜んだ。
大好きな彼の近くにいる為だったらこんな苦労、なんてことない。


幼い頃から私は紳ちゃんの後をずっと追っかけている。
何をするにも彼はいつも私の一歩先を行き、いつも近くで見守っててくれる存在で・・・一緒にいるのが当たり前だとずっと疑わず育ってきた。


そんな幼馴染の彼が2年前、バスケの強豪校で有名な海南大付属に入学し案の定バスケ部に入部した。
予想通りの展開だ。


紳ちゃんがバスケを始めたのは小学校低学年の頃。家の近所のミニバスチームに入ったのがきっかけだった。
当時そのチームの中でも抜群のバスケセンスと運動能力を発揮し、頭一つ飛び抜けた子だと大人の中でも評判だったのを今でもハッキリ覚えている。

そんな彼がバスケの面白さに取りつかれたようにのめり込んだのは言うまでもない。
さすがに運動音痴の私が一緒に混ざってバスケをすることは叶わなかったけれど、彼の試合の応援は一度も欠かしたことはなかった。

紳ちゃんがコートの上で活躍する度に、私はいつも大きな声で彼の名前を呼ぶ。
すると私の声に気が付いた彼は、嬉しそうに私に向かってニコリと微笑みかけるのだ。
今でもそれは子供の頃から変わらない。

その特別感が無性にくすぐったくて、いつも胸が張り裂けそうなほどドキドキする。


・・・私は紳ちゃんが好きだ!!大好きだ!!
だから高校も迷わず海南を選んだ。

紳ちゃんの近くにいる為だったら私はどこまでも追いかける。
紳ちゃんの背中はいつも大きくて、遠くて・・・なかなか私が並んで歩ける位置にはないけれど、私はそんな彼の大きな背中を追いかけるのがやっぱり好きなのだ。

そこにあるのは安心感。
いつか同じ位置に並べるかもしれないという期待。

そして、それに加え何より彼は優しい。
いつも私の先を行く紳ちゃんだけど、私がつまずくと必ず私のところまで戻ってきて手を差し伸べてくれる。
私が転んで泣いていた時も。勉強が解らなくて困っていた時も。友達と喧嘩をしてへこんでいた時も。

どんな時も紳ちゃんは私の傍に居てくれた。


私ももう高校生。
もしかしたら今後私と紳ちゃんの関係に何かしら変化が起きるかもしれないという期待を抱きつつ、最近ますます男らしさが増した彼の様子を見つめる。

私だってもう子供じゃない!
幼馴染から恋人へ。
昇格するには一体どうしたら良いのだろう・・・。


紳ちゃんを追いかけて海南に入学したと言っても、彼は3年生。
もちろん校舎も1年の私とはかなり離れているし、それに加えて朝も放課後もバスケ三昧。

実際、そんな多忙な紳ちゃんと学校内で顔を合わせることはほとんど無く。
週一回の移動教室の時にタイミング良くすれ違うか・・・はたまた全校集会で体育館に集合した時に顔を合わせるくらいか・・・。
なにせ紳ちゃんは3年生の中でも目立つ。
体格も良いし、身長も高い。
そしてなにより男子バスケ部は有名人だ。

幼馴染といえども、ズカズカと紳ちゃんの学校生活の輪の中に無作法に入っていくなんてこと私には出来ない。
紳ちゃんには紳ちゃんの高校生活、私には私の高校生活があるのだから。

彼の邪魔をする気など毛頭ない。

だけど学校から家に帰れば変わらずお隣同士の幼馴染。
それは今も昔も一向に変わらない。

家に帰ってしまえば何の遠慮もなく紳ちゃんの家と自分の家を行き来することも出来るし、そのプライベートの時間を一緒に共有出来る時がやっぱりなにより一番幸せ。

学校内での“牧紳一”と、幼馴染の“紳ちゃん”。
いろんな彼に触れていたい。
それは恋以外の何物でもないと思うんだ。

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