好きという魔法



あぁ・・・めんどくさ・・・
好きとか・・・嫌いとか・・・
嫉妬だとか・・・高鳴りだとか・・・

そういった恋愛事に関して常に一線を保っていたこの俺が・・・まさかこんな面倒臭い事に首を突っ込むことになるなんてな・・・・思ってもみいひんかった。



『南、おはよう!』 

俺の背後からふいに聞き慣れた声が聞こえた。
俺に対して挨拶をしてきた声の主。振り返らなくても反射的に誰だか分かる。
この声を聞く度にいつも俺の心は勝手にドキリと跳ね上がってしまう・・・ホンマええ迷惑やわ。


「おぉ・・・はよ」

『なんや、南。もう少し愛想良くでけへんの?』

「うっさいわ。挨拶してやってんねんからお前こそありがたく思え」

『うっわ〜。あんた相変わらず今日も感じ悪いな』

心とは裏腹の言葉がついつい口をついて出てしまう。
ホンマはこんな事言いたい訳やない。

でも今更こいつに普通に接するなんてこと・・・恥ずかしくて出来るか!アホ!


『あ。実理ちゃんもおはよう!なぁ・・・実理ちゃん、なんで南はこんな感じ悪いんやろね?』

静は俺たちの近くにいた岸本の姿を見つけると呆れたような口調でチクチクと文句を言いながら自分の席に腰を下ろした。

俺と静と岸本は3年になってから同じクラスになって、席も近い事からよく3人で話すようになった。
・・・というか、俺と岸本は元々昔から置かれている環境もほぼ同じで一緒に行動することが多く、その中に静が入ってきた・・・という形やな。

パッと見感じの悪い俺らに対して静は全く物怖じせず、何の違和感もなくいつの間にかスッと俺らの中に入り込んできた。


正直。
今まで女なんて面倒で何考えてるかも分からへんし・・・群れるのが好きなただのやかましい人種と思っとったんやけど、この静はちょっと違った。

きっと静やから俺も岸本も行動を共に出来るんやろうなとつくづく思う。
この静の・・・元気で前向きで・・・それでいてちょっと可愛いと思わせる人柄に俺はいつの間にかすっかり魅せられて、面倒くさいと思っていた恋愛事に堂々と引きずりこまれてしまった。


まさかな・・・この俺がやで!
自分でもビックリやけど・・・一番初めに何かオカシイと気付いたんは静が岸本の事を『実理ちゃん』と呼び出したのが事の発端だった。

そもそも!
何で岸本だけ下の名前やねん!くっそ!腹立つわ!
ほんで、そんな小さい事にさえ静が絡むとイラッとする自分の器の小ささにまたムカついて仕方がない。

静の事が好きなんは認める。
・・・なのに何で静に対してこんなにも悪態をついてしまうんやろ・・・。
きっとこれが世間一般的に言う嫉妬やということも何となく分かっとるんやけど・・・俺はどうしても気の利いた言葉一つさえあいつにかけてやれへん。


「あぁ・・・南さんちの烈くんはちょっと思春期らしいで!」

「おい岸本っ!!お前余計な事言わんでええねん。シバくぞ」

静に話かけられた岸本は面白がってとんでもないことを口走る。
それに若干ヒヤッとして俺もついつい声を荒げてしまった。


「おぉ・・・こわこわ。静、南になんかされたらすぐに俺に言うんやで!俺が守ったる!」

岸本のフザけた言葉に静はケラケラと笑い出し『なんやねん、それ!南、思春期とか!お子ちゃまやな〜!実理ちゃんも頼りにならへんけど・・・まぁええか!』と上機嫌に笑っている。

笑っている静をよそに俺は岸本を睨みつけると、岸本はニヤリと悪そうな笑みを浮かべやがった。


・・・なんやねん!
俺だけ悪者やんけ!ホンマにムカつくわ!
ほんで岸本のその余裕ぶった顔なんやねん!きしょっ!

イライラしながら岸本に暴言の一つでも吐き出してやろうとした瞬間、HR開始のチャイムが大きく響き渡り、俺は「チッ!」と一つ舌打ちをし、ガタンと大きな音を立てて渋々自分の席に着席した。


朝のHRが終わり、1限目が始まる前に用を足そうと席を立ち廊下を出た所で、岸本が後ろからシレっと追いかけてくる。

「なんやねん。鬱陶しい。便所くらい一人で行かせろや」

「まぁ・・・そう言うなや。俺と南の間柄やん。俺もちょうど便所行きたかっただけや」

俺は呆れたように岸本をチラリと横目で見ると、岸本は白々しい態度で「何や?」と言ってのける。

「なんやねん。用があるならハッキリ言えや」

「はぁ・・・?よう言うたな、南。その言葉お前にそっくりそのままお返ししたるわ」

「どういう意味やねん」

「うわっ!シラ切るつもりなんか?お前見てるとイラッとすんねん。男だったら勝負せんかい!静の事やぞ!」

「は?」


・・・なんやねん。
オカシイやろ!なんで岸本にそんな事言われなあかんのや。
ほんでお前・・・何様やねん!このタラコ。

「俺は女々しいお前見てると、ホンマどつきたくなるわ」

「ほっとけ。急になんやねん」

「お前、好きなんやろ?静の事」

「は?」

「誤魔化しても意味ないで。何年一緒におると思っとんじゃ、ボケが!乙女にはもっと優しく接さな!乙女心は繊細なのだよ、烈くん」

ふと岸本の方へ目線を移すと、違和感のある言葉使いをしながらニヤニヤといやらしい表情で俺を見る岸本と目が合った。


・・・こいつ・・・完全に面白がっとるやん!

岸本の表情を見た瞬間、自分の顔に青筋が立つのが自分自身でハッキリ分かった。
ピキピキと体中の神経が怒り狂いそうなくらい腹立たしい。
その中でも一番腹立たしいのは、自分でも分かっている事をあえて知ったらしく指摘された事。


・・・お前に言われんでも分かっとんじゃボケがぁぁぁあああ!
ちゃんと出来てたら俺かて苦労せえへんわ!
ほんで、何より女と付き合うた事もないお前に言われたないんじゃどアホ!
くっそ!変態野郎が!


岸本が俺の隣でドヤ顔をしながら説教を垂れているのを睨みつけながら、俺は淡々と言葉を発する。
内心は煮えくり返っているのだが、ここは冷静に。
ここで喚き散らすのは得策ではない。岸本の思うツボや。


「乙女・・・ゴコロ・・・やと・・・」

「そうや。そこ重要やで?」

「お前・・・どの口が言うたんじゃ、アホ!」

「あ?」

「女を知らんお前に言われたないんじゃ、ボケ!」

「うっわ!なんや?南、お前かて似たようなもんやろが!先輩風吹かせやがって!悪いけどな、俺の方がいざとなったらお前より優しいって自信あるで!」

「・・・・・・」


・・・うっわ。引くわ・・・。
岸本の優しさ加減なんてどうでもええ。
気にもならんし、興味もない。
あかん・・・呆れて言葉も出えへんわ。


「とにかくな!お前、静に対してもう少し気のある素振りでも見せといた方がええで。そうでもせなお前・・・誰かに静取られるかもしれへんで。あれでアイツ結構可愛いからな・・・例えば・・・俺とかな」

「・・・勝手に・・・せぇ」

「うひゃひゃ。まぁそれは冗談やけど・・・あら〜?ちょっと慌てたんちゃうん?顔色おかしいで?」


・・・あかん。あかん。
いくら俺でも・・・・そろそろホンマに堪忍袋の緒が切れそうや・・・。

岸本は愉快そうにベラベラと喋り散らしながら、男子トイレの入り口に到着すると鼻歌交じりに上機嫌な様子でトイレの中に入って行った。

俺はそれをイラついたまま見届けると、岸本が入った男子トイレの前をスッと通り過ぎ階段を一つ降りて別の階の男子トイレへと歩を進める。

この状態で並んで用を足すとか・・・ホンマ鬱陶しい。
ようやく岸本の余計なおせっかいに解放された俺は、静かな時間のありがたみをヒシヒシと感じた。


そんでも。
ついさっきまで煩わしく思っていた岸本の言葉が用を足しながら急に頭の中に蘇ってくる。
あいつの言うとった言葉もあながち全てが間違いというわけではなさそうや。

確かに静はちょっとアホなとこはあるけど、もしかしたら狙っている奴が本当におるかもしれへん。

岸本だって口ではああ言っとったけど、本音はどうか分からへんし・・・。
かと言って・・・今の俺が他の奴に感化されて慌てふためくなんてカッコ悪い事出来るか!

普段なら、他人がどう行動しようが、何を言っていようが大して気にもならへん俺でも、静の事が絡むとなると、多少なりとも気になってしまうんやな。


「はぁ・・・なんやねんな。どないせぇっちゅうねん・・・」

行き場のないちょっとした焦りが口を吐いて出てしまう。
やっぱり、最近の俺にしては珍しい。

基本的に自分の感情を表に出すんが苦手な俺にしてみれば、静の事となるとこんなにもあっさり他人の言葉に耳を傾け、あぁでもない、こうでもないと考えを巡らせるんやから。

俺はトイレの手洗い場に同設されている鏡に映った自分の顔と向かい合った。


・・・このままやと・・・なんも変わらへんってことくらい俺かて分かっとる。
あいつの中で俺が友達止まりやってことくらい・・・。


「このままやと・・・やっぱあかんのか・・・」

自分の中で少しだけ何かが吹っ切れた瞬間だった。


・・・いや・・・言うとくけど・・・さっき岸本がああ言ったせいやとか・・・微塵もそんなことないからな!
あいつの言葉に影響されたせいやとか・・・そう思われたら胸クソ悪いわ・・・。


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