きみ、ください
『せんぱーい!!!みーつーいーせーんーぱーいー!!』
放課後の掃除時間。
私は2階にある自分の教室の窓から下を覗くと、ズルズルと大きな青いゴミ箱を引きずりながら焼却炉の方へだるそうに歩く愛しの三井先輩の姿を見つけて大きく叫んだ。
「あ・・・?・・・佐藤・・・か?」
三井先輩は自分の名前が呼ばれてるのに気付き歩を止め、声のする上方を怪訝そうに見上げると、「おー。お前サボってんじゃねぇぞ!」と大きな声で言い返してきた。
・・・あぁ!どうしよう!!!
このちょっとしたやり取りだけでも私の心臓はドクドクと波打って、あなたの笑顔に卒倒しそうです!
三井先輩!
私はあなたの事が大好きです!!
あなたを私に下さいっ!!!
三井先輩と私の出会い。
それはもう本当に些細なことがきっかけだった。
三井先輩は私よりも一つ上の学年で、ちょっとしたやんちゃな時期を経て最近バスケ部に復帰したらしい。
それからは今までの空白を埋めるように部活に精を出し毎日多忙な生活を送っているとのこと。
・・・まぁ。全部人から聞いた話なんだけどね。
要するに何が言いたいかというと、私と三井先輩はつい最近まで話したこともなく全く関わりのない間柄だったのだが、先日学校帰りにたまたま友達と立ち寄ったファーストフード店で鉢合わせになったのをきっかけに話すようになった。
その時、三井先輩は私と同じクラスの宮城と一緒に居て、偶然にも店内で席が隣同士となったのだ。
「あっれ〜?佐藤と田中じゃん!」
『わっ!宮城!』
「なにその反応!ひでぇ!」
私たちと宮城のやり取りには我関せずの様子で終始無言だった三井先輩は、ハンバーガーを大きな口で一口頬張った。
『えぇと・・・同じ・・・バスケ部の方ですか?』
「あ〜佐藤気にしなくていいから。この人ね、いっつも不機嫌なの。感じ悪いでしょ?・・・3年の三井さん。」
「てめぇ!宮城っ!」
彼らのやり取りに笑いがこぼれる。
こうしてちょっぴり顔見知りとなった私たちは、学校で顔を合わせると挨拶するようになって少しずつ少しずつ話すようになっていった。
それからしばらく後、私にとって重大な・・・大事件が起こる。
それは男子バスケ部の練習試合でのこと。
試合会場が湘北高校の体育館だったということもあり、私は宮城と三井先輩の勇姿をチラリと覗きに行こうと体育館へ向かった。
正直バスケのルールなんてよく分かんないし、お互いのカゴにボールをたくさん入れた方が勝ちだということぐらいしか知らなかったけれど、私はある瞬間、目が釘付けになった。
な・・なに・・・あの技・・・・!
や・・・ヤバイ!か・・か・・カッコ良いっ!!!!
それはゴールの遠く離れた場所からボールを放り投げ、綺麗に弧を描いたと思ったらスパッっという音と共にボールがカゴに吸い込まれた瞬間だった。
だ・・ダレ!?誰よ!この技を繰り出したのは誰!?
私はコート上で右手の拳を天高く突き上げてニヤリと“してやったり”な表情の人物が三井先輩だと気付く。
み・み・・三井先輩だぁぁあああ!わぁあ!まさかの三井先輩だったぁぁ!!
ど・・ど・・どうしよう!う・・嘘でしょ?カッコ良すぎでしょ!
はい。この瞬間、有無を言わず私は三井先輩にフォーリンラブしてしまいました。
それから私は三井先輩の事をもっともっと知りたくて、もっともっと話してみたくていろいろ頑張ってアプローチしてみるものの・・・・全く効果なし。
だけどね、三井先輩に関してとにかく2つだけ分かったことがある。
・・・・三井先輩は俺様でものすごく鈍感だということ!!!
『先輩、三井先輩!今日一緒に帰りましょうよ!』
「あー宮城にも言っとくわ。」
『え・・・あ・・。ちょ!』
・・・・・いやいやいや、なんでそこに宮城が出てくんの!?意味わかんない。
『あ。三井先輩っ!今日の夜、電話しても良いですか?』
「あ?・・・なんだ相談事か?俺、そういうの苦手なんだけど。」
『え・・・・相談って言うか・・・。お話出来たらなぁ〜って。あはは・・・。』
「話?・・・お前もっと別の奴で話する奴いるだろ?」
・・・・・はい、撃 沈 !!!
こーばーまーれーたぁぁぁぁ!
くっそ!負けない!こんなことでへこたれてたまるもんかっ!
私の三井先輩に対する愛情は深いんだからっ!
『三井先輩、今度試合観に行っても良いですか?』
「おぉ!来い来い。」
『え?ホントに?やったぁ!差し入れ何が良いですか?』
「・・・・今度聞いとくわ。」
・・・・・は?はぁ?
聞いとく・・・?誰に?
もぉぉぉ!ホント意味わかんない!!
三井先輩が何考えてるか全く理解不能。
こんなやり取りなんて日常茶飯事だ。
え・・・・まさか・・・・私・・鬱陶しがられてる!?
そんなこと・・・あるはずないよね・・・あはは。
えぇぇ・・・マジで!?
そういう展開なの?私、真剣に拒まれてるの?もしそうだとしたら完全に立ち直れないんだけど・・・。
極力嫌な方には考えないようにしてきたつもりだったが、今までの理解不能な三井先輩の行動を思い返してみると、あながち間違ってもないような気がして全身から血の気が引いていく。
深く考えれば考えるほど負の思考にハマっていきそうだ。