伝えたいことは、ただひとつ
writing by 『If you were mine』聖野さん




今日は大好きな牧さんと花火大会。
かなり早い段階で約束ができたから、浴衣も新調しちゃった。
嬉しくて、こんなにワクワクしてる自分が今日はすごく可愛いと思うんだ。
牧さんもそう思ってくれるといいな。

待ち合わせの場所には10分ほど早く到着した。
花火の打ち上げ時刻までまだしばらくあるのに、人、人、人の波!!
こんな中で上手く牧さんと落ち会えるのかな?
なんせ、暗闇ですから……
牧さんが白い歯を見せながら笑って歩み寄ってきてくれないとわからないかもしれない!!?
という冗談は置いといて。
私ははやる気持ちを抑えながら、彼の到着を待った。


数分すると、聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。

「静〜」
「あ!牧さん!」
「お待たせ。早く着いたんだな?」
「うん!だって、すっごい楽しみにしてたんだもん!ていうか、牧さんも浴衣で来たんだね。似合ってるー!」

そう、私の愛しの牧さんは予想外にも浴衣を着てきたのだ!
シックな海老茶色に細く紺色の縞模様の入った浴衣に、それに合わせた濃紺の帯。
ああ、素敵!!
まさか浴衣姿が見られると思ってもみなかったから、なんて目の保養!!

「静の浴衣も似合ってるぞ、うん」
「ホント?ありがとう!牧さんのために新しく選んだんだー」
「俺の、ために?」
「そうだよ」

牧さんは一瞬真顔になって、繋いでいた私の手をギュッと握りしめてきた。

「え、急にどうしたの?」
「いや……俺のためにって言ったから、つい……」
「つい?」
「想像した、申し訳ない」

なんだか一方的に謝ってきたけど、牧さんが口ごもるもんだから私にはさっぱり意味がわからない。

ちなみに私の浴衣は白地に若草色の蔦の柄が裾に薄く入ったもので、帯は表が淡いピンク色で裏の花柄も見えるように着付けしてきた。
牧さん、気に入ってくれたのかなぁ。
ふふふ。

それにしても、いったい何を想像したんだろう。
いつも素っ頓狂なことを言う牧さんなだけに、私は今回も聞き出したくてたまらなくなった。

「ねぇ、牧さん。さっき、なに想像したの?」
「べ、別にたいしたことじゃ、ない」
「えー!明らかに動揺してるじゃん!」
「し、してないしてない!」

むぅ……意地でも言わないつもりなのか、牧さんめ。

「じゃあさ、私の今日の浴衣、どうかな?」

笑顔で問いかけてみたところ、またしても牧さんの表情がピキッと引きつった。
あれ?なんで?
私はわずかに不安を覚えたけど、彼の返答を静かに待った。
すると少し間があいてから、牧さんが口を開いた。

「その浴衣……ヤバい」
「え!?ヤバい!?どっちの意味で!?変?変?」
「違う……すごく、良い。ヤバいな」

そう言うと、みるみるうちに彼の表情が緩んでいった。
そして続いた言葉に私は意表を突かれた。

「なんか、大奥みたいじゃないか?」
「は!?大奥!?大奥っていったらド派手な着物引きずってるやつじゃん!」
「それじゃなくて……夜の、大奥」

も、もしやそれって、上様と御台所様が夜の営みをするときのことではないのか!?
あの白い着物!!

「わー。牧さんってば、エロい」
「男は誰でもエロいだろ。しかも好きな女がそんな浴衣着てたら想像するだろ」
「え、でも大奥はないよ〜」
「あると思うけどなぁ。俺はあのシーンが好……なんでもない」

『好き』と言いかけて口をつぐんだ彼。
エロいエロいって言っちゃったけど、実はほんのりとプラトニックさが漂う営みがお好きなんですね?
普段は好奇心旺盛で一生懸命なのに!
知らなかったー。

と思ったのも束の間。
牧さんがまた言葉を漏らした。

「あと、和服姿を見るとどうしてもだな……」
「どうしても?」
「アレをやってみたくなる」
「アレって、なに?」
「アレと言えばアレだろ。『あ〜れ〜』ってやつだ」

さっきプラトニックとか言ったけど、前言撤回!!
やっぱり牧さんちょーエロいじゃん!
っていうか一歩間違えたら変な人だよ!

「え〜、あれってそんなにしてみたいもんなの?」
「ん……一度はなぁ。今日の静の浴衣は俺好みだし、よけいになぁ」
「じゃあ、私が『あ〜れ〜』って言わなきゃいけないの?」
「い、言ってくれるのか!?」

私が何気なく口にした言葉で、急に目を輝かせ肩をガシッと掴んできた牧さん。
どんだけ必死なの。
もうおかしいよー!
牧さんの性癖おかしいよー!

と言っても大好きな彼のお願いだから聞いてあげちゃおうかな……?
なんて思ったその瞬間。
牧さんに小さな男の子が抱きついてきた。

「パパ〜!!」

なぬ?
パパだと?
と一瞬戸惑ったけど、どうやら人違いのようで。
だけどその男の子は完全に牧さんを自分のお父さんだと思い込んでいるのか、なかなか離れようとしなくて彼の浴衣にしがみついてじゃれていた。

そして事件は起こった。
少年が牧さんの帯を掴んで引っ張ったのだ!
男性の帯は女性ほどしっかりと結ばれていないとはいえ、そんなにも簡単にほどけるものかと我が目を疑った。
みるみるうちに緩む牧さんの帯。
そこで私が彼の口から聞いた言葉は一生忘れないであろう。

「あ〜れ〜!!」

牧さん……私より先に言っちゃったよ。
しかも男性なのに言っちゃったよ!

私は懸命に笑いを堪えて、牧さんから少年を引き離し、パパに見えるかもしれないけど違う人だよと言い聞かせた。
そして無事に解放された牧さんの浴衣を整えるために、ひと気の少ない場所に移動した私たち。

「牧さんさ、さっき『あ〜れ〜!』って言ったよね」

私はついに堪えられなくなって、ケラケラと笑いながらつぶやいた。
すると肝心の本人はキョトンとした顔をしているではないか。

「え?俺、言った?」
「言ったよ!しっかり聞こえてたから!」
「あ〜れ〜……!」

頭をポリポリと掻きながら、牧さんは再び同じセリフを声に出した。
もう無理!!
やっぱり牧さんおかしい!
何度も笑わせないで〜〜〜!

そして浴衣の乱れを綺麗に整えてあげると、ひと気が少ないのをいいことにこんなことを口走った牧さん。

「この辺、人が少ないな……ちょっとだけ、ダメか?」

やだ牧さん、あんな災難にあったところなのにまだ諦めてなかったの!?
全く、仕方ないなぁ……
でもそんな牧さんがやっぱり私は大好きなの!!
今日は特別な日。
だから許しちゃおうかな。
じゃあ、ちょっとだけだよ、牧さん★




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