おててひらいて
writing by 『あなたとエクレアとミルクティー』日向愛理さん




恋さえも餌付けからはじめている俺は

かなりの無器用なのかもしれない。



「静」

「あ、紳ちゃんだ」


唯一、俺のことを紳ちゃん、と呼ぶ静は

どうしたの、と言いたそうな顔で近づいてきた。


「カレーパン、食う?」

「わ、食う食う!」


「お前ならそういうと思ったさ」

「食い意地張っててすいませんね」


そういって彼女は廊下を歩き出す。


カレーパンは苦手だとか

それはクラスのヤツにもらったなどといって

卑怯な俺はいつもそんな風に彼女との時間を稼いでいる。


「紳ちゃんてさ」

「なんだ」


「人に物あげるの好きだよね」

「…そうか?」


中庭でカレーパンを食べながら

静は言う。


「この前清田くんが牧さんからチョコもらったー!って喜んでた」

「ああ、そんなことも」


「ほら、やっぱり」


つまらなさそうに

足をぶらぶらさせながらそうつぶやく。


「まぁ言われたらそうかもな、うん」

「ん、どうした?」


「静や清田は上手そうになんでも食うからな」

「それは、褒められてるのか…」


「褒めてるさ、でもって今日はもう一個あるぞ」

「カレーパンが?」

「違うよ、ほら」


ポケットから出した小包に

静は本当に間抜けな顔して


「ん、ん、どした?」

「この前、見つけて静こういうのすきそうだから」


「わ、かわいいヘアピン」

「気に入ってくれたなら、もらってくれ」


「え、でもなんで?誕生日とかじゃないし」


「そうだな、そろそろ形に残る何かをお前にやりたかったんだよ」



カレーパンとか

チョコとかそんなんじゃなくって

俺を思い出してくれる何かを。


「う、うれしいです」



そしてあわよくば

形に残る何かをいつでも差し上げられる間柄になりたくて。


「…う、わ。なきそう…!」

「え、なんでそうなる」


泣きじゃくった後の彼女から

今日は紳ちゃんを好きになった記念日なのだと

意外にも乙女な記念日を記録していたのを知るのは


もうちょっと後の話。



おてて、ひらいて
(なんでもあげよう。きみだから、きみだけに)


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