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密約 (参)

猿飛さんは「じゃまたね〜」と一言残すとまばたきをした瞬間には消えていた。
いやぁ、今ばかりはいてくれてた方がありがたかったんですけど…


…とりあえず脇腹痛い。
とりあえずじゃなくても脇腹限界でつりそうです。
声がいいからなのかそれが余計に笑いを誘ってしまっているんです。ツボってるんです。

そうですよ、もうつりそうなんです。どうしよう。
そうですか、奥州筆頭様ですね。知ってます。本で見たことあったから知っていましたけれど、新たに笑いとともに知識が上書きされて忘れないと思います。

いきなり笑い出したら失礼ですよね?…がんばれますか、私。

うひょひょひょひょひょう。
と、息止めてないといきなり笑い出してしまいそうです。
何だかごめんなさい。激しくごめんなさい。



「…っ」

「どうした?目、泳いでるぜ」
「…」



それは笑うのを我慢してるからなんですよ。
笑っても怒らないのが確認とれるなら、ひとりバカ笑いをしだすと思われますので、そこら辺りは何卒するっとスルーして下さいませんか。お互いの為にもそうしていただけますか。そうしていただけるなら、即刻この笑いたい衝動を解放してやりますから。



「…」

「〜だろ、You see?」



はい?何?なんですか?
聞きそこなってしまいました。息止めてて苦しいから聞きそこなってしまった。

私が笑いだす前に、誰かこの人止めてくれ!
お願いだから少しでいい。
息するちょっとの間だけでいいですから。
慣れたら大丈夫だから、この愉快なしゃべり方の筆頭様をお止めくだされ。

もうマジ息がもちません!
酸素酸素酸素ー!
うぅぅ、酸素please!
Please oxygen gives!

英語あってるかどうかわかんな…いや、違う違う!筆頭様のしゃべり方の真似してる訳じゃないですから!

と、脳内でひーひー呻いていたらまた誰かがやって来た。

………?どちらの男前様で?
誰?どちらさま???



「…ふ、はぁ、?」

「成実」



「…」



息ができました。ありがとうございます。成実さん…伊達成実さんですか?
伊達さんの周りで成実の名前の人は一人しか知らないです。伊達の家臣は片倉小十郎と伊達成実しか知らないですから。
あ、後ひとり片倉小十郎の姉?のキタさん。

…それよりもなんですか、なんなんですか、男前さんの視線が痛いです。



「ふーん?こいつが、噂の悪女か?」

「……」



うおっ、なんだよ、なんですか。なんなんですか。
あんたも井戸端会議野郎ですか!



「違います」
「なんだ?」

「だから違います」
「あぁ。悪女の事か。そうだろうな。違うだろうな。あんた色気ねーもん」

「うえぇ…ハッキリいいますね。そんな事、言われなくても残念な事に私も知っていますから」

「は?ぶははっ。変な女。面白れぇな、あんた」


「おい、お前等俺を無視するんじゃねぇよ!」



あ…笑いが飛んでってた。助かった。そのまま自己紹介してくれた男前さんは伊達成実さんで当たりでした。「政宗と名字同じで面倒くせぇから成実でいい」とまで言ってくれる成実さんには好感しかもてなくて不審に思われるだろうからやらないけれど、ありがとう!と、成実さんに気持ちだけで拝んでいたら片倉小十郎がやって来た。

はい。素直な第一印象です。
ドラマなんかで見たことのあるヤで始まる職業の人みたいで外見が怖い。落ち着きはらった雰囲気がモブの私の恐怖心を煽ります。そうですよ、私ただの一般人のモブなんです。

今更だけど、それなのにどうしてこんな目にあってるんだろう…
何故だか誘拐だし。薬の影響がまだ残ってるのか頭ガンガンするし、鳩尾まだ鈍く痛いし。明智さんは死神だし。竹中様は女王様だし。

と、後半意味不明になってきてたけど、不幸に酔いしれそうになっていたら突然本題が降ってきて「会わせたいやつがいる」と、告げられ今から対面となる様子です。

武田様は朝餉の後にでもと言っていたけれど、私の絶叫が笑いを誘ったらしく待てずにやってきたらしい奥州筆頭様はよく言えば行動力があるのかもしれないけれど、悪く言えば行き当たりばったり感の否めない人なのかな?と、思ってみたりしたけれど、明智さんが初夏に行った時に大坂城で『私を捜している人がいる』とか言ってたけれど、その人のことなんだろうか。

逃げようもないから行くしかないんだけど、気分が重たいと思うくらいは許して下さい。
私、今更感が否めないですけど人見知りなんです。気分は生まれたての小鹿なんです。

うぅぅ、利三さんと秀満さんと明智軍の人が懐かしい。
…明智さんにすら会いたいと思ってしまってるじゃないですか。

確かに明智さんのいう通りに坂本城からだと奥州は遠く離れた場所で奥州の人がなぜ私を捜しているんだろう?と考えてもわからないけど、ぐるぐるとまた思考だけがムダにあわてふためいてきました。


遠くで「おやかたさばあぁ」「ゆぅきぃむうらぁああぁー!」って、声が聞こえてます。ついでに何かが壊れている様な凄い音もしていますが、大丈夫なんでしょうか?
朝餉の前の稽古なんでしょうけれど、明智軍ではこんな朝っぱらからやってるのは見たことなかったです。朝練やってる体育会系のノリなんですね武田軍は。
…なんだか、明智軍とは違って健全ないい香りがすると思ってしまいました。

いいなぁ。殴りあってるの見てみたかった。真田幸村を遠目でいいから一目見てみたいものです。多少の癒しを求めている気分に近いかもしれないですけれど。

竹中半兵衛みたいに勝手に妄想してたのと違う!と、変にショックをうけそうだからあまり幻想をいだくのは止めた方がいいですよね。と、思っていると庭を挟んで対面にある部屋までやって来てしまいました。

このお屋敷も探検してみたいと思ったけれど、不審者扱いですぐ猿飛さんに殺されてしまいそうですよね。


…はぁ。

緊張するといいますか、気が重たいもんですね。誰なんだろう?
只でさえまわらない頭の回転がますますまわらなくなってきた様に思えます。


私の気持ちなんか構ってくれる人がいる筈もなく襖が開けられるとそこに居たのは…
もしかして同じ年くらいなんでしょうか?

私には心当たりがなくて固まっていると、私を確認するやいなや大きな瞳から涙がポロポロと零れ始めて、どうしたらいいのかわからずに思考が固まったまま『私を捜していた』らしい彼女の前に腰をおろした。

…どうしよう、零れおちた記憶の中にいた人だという事ですか。

少女と言うには年がね…、と思うのだけれど、第一印象は美少女という感じで何とも守ってあげたくなるようなそんな女の人だった。

自分とは違いすぎて何だかいたたまれません。
涙を隠そうとはしているものの隠しきれていない所が余計に守ってあげたくなっちゃう様なところが小動物的で可愛いですよね。

大体私は人前では意地でも泣かないタイプだからダメなのかな?と変に反省したりしているのですが、こういう可愛くて愛らしいという言葉がしっくりくる人が相手なら明智さんも鬼ごっこなんかしないんだろうな…、と簡単に想像ができる辺りが何だか空し過ぎますね…。


美少女さんは話せる状態じゃないと察したのか片倉さんが話してくれているんだけれど、片倉さんの説明によるとどうやら明智さんは冷酷な死神さんとして超有名人らしいです。

間違いではないよねー。
そこは私も『同感』の二文字につきます。

出会いは最悪だったし。話し聞いてると色んな尾ひれも付きにつきまくってるみたいだけども。後、付け加えるなら羞恥なプレイをやり始める変態ですけどね。

ずっと私を捜してくれていたらしいけれど、最近私が明智軍にいることを知って今の状況に至っているらしいんですが、だったら武田経由で誘拐なんてことはせずに、明智さんに話を通してくれたら良かったんじゃないのかと考えを巡らせてみたのですが、話したくてもまだ話せる状態じゃなさそうですよね。

この美少女さんはとても心配してくれてたらしいけれど、誰なんだろう?
こんなに可愛らしい美少女系なら忘れたくても忘れられないような気もするんだけど…

と、真面目に考えてはみたけれど、ますます泣き出してしまった美少女さんの号泣は続くよ。どこまでもー
でもどうしたらいいのかわからない私はどうしたらいいんだろう?

呆気にとられながらも何となく子供をあやすように、あやしてみるけど、止まらない…

私があわててもしかたがないのだけれど、何だか私が泣かしているみたいで変な罪悪感があるのはどうしてなんだろう。

うえぇ、どうしよう。



「あの、えーっと、」
「ごめ、ごめんね」


「いい加減泣き止め」

「…だっ、て」
「会って話がしたかったんだろう。とりあえず深呼吸しろ」

「はい…」



ヤのつく職業のような強面の片倉小十郎さんは、ぽんぽんと美少女さんの頭を撫でている。

おぉ、これがいい意味でのギャップというやつなんですね。秀満さんとは真逆のやつ。

素直な感想は美少女と野獣です。我ながらぴったりだと思いのですが、これどうしたらいいんだろう?突っ込んでいいのやら悪いのやらよくわかりかねるんですが、どうしたらいいんですか?の気持ちをこめて両隣にいる二人を見てみたけれど、



「…」
「…」

「…」



絵になりますね。
だけれど、残り三人揃って薄い目して同じ顔になっています。

二人が二人の世界に入っちゃって若干いちゃいちゃしている様に見えるからなのか、突っ込んでいいのか悪いのか、邪魔者なのやらというところでしょうか。

もしかしなくても伊達軍ではいつもの事なのですか。日常茶飯事というやつですか。

例えが違いすぎてまたまた空しさ倍増ですが、私と明智さんの鬼ごっこタイムの様に明智軍公認的な感じに近いんですか。伊達軍公認タイム的な。
だから、しばし傍観タイムを満喫していなさいという事ですか。

…いや、でもこれは困った。
私と離れた所でやってくれてるなら放置プレイで何とも思わないんだけど、美少女さんはほぼ私の目の前にいるしでリアクションをとりづらいです…



「……、」


「また始まりやがった」
「え?やっぱりいつもこんな感じなんですか?」

「そうなんだよ。場所考えろって、あんたも思うだろ」

「ははは」



ヒソヒソヒソヒソヒソ話。


「政宗、お前主君なんだから注意しろよ」
「あぁん?成実、誰になんて口聞いてやがる」

「はぁ?じゃ、政宗様、」
「いい。やめろ。お前に様つけされると気持ち悪りぃ。直ぐ言うな。直ぐのるな気持ち悪りぃだろうが」

「は?お前面倒くせえな。言えないのか?主君ならさっさと言えよ」

「お前が言え」

「お前が言えよ」
「命令だ。お前が突っ込めよ」
「はぁ?」


「…」



仲いいんですね、筆頭様と成実さん。
暫しいちゃこらさん達を眺める筆頭様と成実さんと私。

どうしたものやらと思うけれど、これはこれでこれはなかなか羨ましい。



「…あ、もしかしてお二人共うらやましいんですね?」

「……んなことねえ!」
「んなことねえよ!」

「…ぷっ」



ダブってますよ。皆まで言わなくてもよくわかりました。羨ましいんですね。私も仲間です。
色んな意味で伊達さんの所も仲がいいんですね。

なんだろこの周りをヘタレな桃色空間に誘う感じはどうしたらいいんですか。
幸せなのは私も羨ましいんですけれど、逃げようにも自分は連れてこられた側の人間だから勝手に部屋から出て行っていいものなのかも悩むのですが。

と、そこへ突然珍客が乱入。
「いいね〜いいね〜恋だねぇ〜」と。
…見てすぐわかった。前田慶次だ。本で見たそのままの様な印象でした。
と、突然我に返って照れ出した二人が微笑ましく思えて、殺伐とした戦国の時代にも恋人同士がいることに感動を覚えました。いいな〜

また改めてと後でも良かったんだけれど、彼女は「私は吉広 巴だよ」と名乗り、私は息が止まりそうになるくらい驚いた。

彼女は儚げに笑って「久し振りだね、玉緒ちゃん。十年振りくらいになるのかな?」と、言った。



「…え」
「びっくりするのは当然だよね」

「うん」

「私、ずっと玉緒ちゃんに会いたかったんだよ」

「…私も、だよ」



着いていかない頭で呆気にとられたままそう答えた。
吉広 巴ちゃん。

小さな頃からご近所さんで評判の美少女だった。だから、誘拐されたとかなんたらかんたらで…

ここに来てたってこと?
十年前から?そう…ですよね。それ以外に考えられませんよね。

いなくなったのはどこかの神社でしたっけ?覚えてた筈なのにそこは記憶が零れ落ちてる!うえぇ…頭がパンクしそうになってきました。

だけれど、そう言われれば面影がある。どこか守ってあげたくなる様な雰囲気に柔らかそうな髪に整った顔に印象的な大きな瞳。

『吉広 巴』は、十年前に神隠しにあったと世間で騒がれた私のいとこの名前だった。

20140205