あなたに、 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


密約 (肆)

巴ちゃんは、失踪後直ぐにどこかの山中で伊達さんと片倉さんに拾われた…、もとい保護されたそうです。

この時代では見たこともない服を着て気丈に泣かないながらも瞳に涙をためた巴ちゃんを怪しいと思えたかどうかは、満場一致で思えなかった方向に傾いたんでしょう。と、勝手に推測できました。

そうですよね、何となくだけれど正統派なヒロインとはこういう感じなんでしょう。
と、また勝手に簡単に納得できてしまう辺り巴ちゃんは凄い!と思ってしまう訳なんですが、それに比べて私は何故だか…

ムダに殺伐としてるは、
軽く笑いにはしってる(つもりは全くないですが)は、
かくれんぼだし、鬼ごっこだし、
変な噂をたてられてるし、
クソの様な噂たてられてるし、うえぇ…思い返してもクソの様です。

私って一体何なんだろう?
と巴ちゃんの話しを聞きながらヘコんだり、遠くを見つめること数回です。いえ、モブ希望だからいいんですが、なんか…こう、なんかこう…うぅぅ、いえ、いいです。私はこれでも楽しく生きてましたからいいんです。私には巴ちゃんの様な強面だけど優しそうな片倉さんやその主たる奥州筆頭様を筆頭に周りをほのぼのほんわりと巻き込んでしまう様な桃色の世界は絶対に築けないと思われますので、お子様上等!でいいのです!

言葉だけは可愛いですが明智さんと鬼ごっこしているのが自分でもぴったりだと思っていますから。噂だけは早く消えてなくなってしまえ!と強く思っていますけれど。いつから言われていたのかは知りませんけれど、75日間は辛抱です。


はい。そして巴ちゃんの話しは続いているんですけれど、全く見事にその時のことを覚えていない私は巴ちゃんの話に驚き過ぎてリアクションをしそこなうという失態をかましてしまっています。アニメや何かでみると私だけ白くなってみえているんじゃないかと思われます。

巴ちゃんにも何がどうなってここへ来たのかはわからないらしいのだけど、ここへ来る直前に私が巴ちゃんを庇って大怪我をしたらしいです。記憶にないからどうだったんでしょう?と思うのですが、どうだったんでしょうじゃないですね、そうだったんですよね。

確かに何となくだけど、巴ちゃんがいなくなったのを聞いたのはどこかの病院のベッドの上だった様な気がしないでもないけれど、今は記憶がないからわからないです。だから、どこか他人事の様に聞いているんでしょうか。それとも自分の許容範囲をとっくに越えてしまっているからそう思っているんでしょうか。

巴ちゃんが言うには、私は身体が弱くて入退院をくり返す薄幸の美少女(ここで思いきりやっとですすったお茶をぶはっと漫画のように吹きだしました)だったらしくその上巴ちゃんを庇ってケガをして…たらしくで、ずっと巴ちゃんは心配してくれてたらしいんだけど、残念な事に今の私はそれを全部忘れてしまっているようなんですが、とりあえず涙で潤んだ瞳の目力の強さにいたたまれなくなってしまいます。

私はここへ来てからは数ヶ月だけれど、巴ちゃんは10年もの間ずっと私を捜してくれていたんだそうです。現状わかった事は、私は当時のことをまさに零れ落ちた様に記憶していない事と巴ちゃんがすごくいい子だということだけでした。



***



翌日、昼。縁側でぼんやり。
ひとりでぽつりと日向ぼっこ中です。あたたかな日差しがふりそそいでいてここが坂本城だったらいいのに。と思うこと数回です。

ふと明智さんと利三さんと皆さん方に食べてもらおうと思って秀満さんと干し柿を作っていた事が気になりだしました。それはもう大量につくっていましたから。干し柿は揉めば早くできるらしいから明智さん達が帰ってくる予定の日までに仕上げようと揉んでいたから秀満さんちゃんと揉んでくれてるかな。と思ってました。

そう言えば誘拐された時は、秀満さんと干し柿を揉んでた所でしたもんね。

私…、坂本城に帰れるんでしょうか?巴ちゃんは一緒に伊達軍に行こうよ!と言ってたけど…(伊達さん家は、何故だか歓迎ムードなんですが何故なんでしょうか)



「…はぁ、」
「玉緒殿、食べないのでござるか?」
「!」



はい?
おぉう!?いつの間にやら横に真田幸村が座ってました。小首をかしげててかっこいいやら可愛いやらです。
て、いま玉緒殿って言った?言ってたましたよね?
わーい嬉しい〜!癒される〜



「どうかしたのでござるか?」
「あっ、あの?」

「この団子、佐助が作ったゆえ、美味しいでござるぞ」



「…」

「玉緒殿?」



うわわっ。
一瞬毒か何かしらを盛られてないか心配になってしまいました。ごめんなさい。

流石にもうそれはないだろうと思いたいです。今の所、巴ちゃんに会えたのがひとつとまだ他に私に用があったんですよね。



「?」
「…」

「玉緒殿?」



お皿には色鮮やかな三色だんごが仲良く三本。いただきますと言って、一個口に含むと流石は武田のおかん!美味しいでござる!と思ったのですが、一本食べるのがギリギリです。「お腹いっぱいなので、宜しければ二本食べて下さいませんか?」と言うとお花畑が…

「…」
「?」
「…良いのでござるか?」
「はい」
「本当に良いのでござるか?」
「あ、無理には…」
「そんな事は言わないでござる!玉緒殿、良いのでござるか?」

「え、はい。良いでござる」
「…なんと」



真田幸村の背後にお花畑とキラキラが見えました。うぅぅん、…なんだろう。この可愛い生き物は…

どうして耳と尻尾がないんだろ?と激しく病んだことを思いつつ団子を美味しそうに食べる真田幸村を見てるとわんこに餌付けしてる気分になるのは何故でしょう。可愛いです。

しかしですね、自分が勝手に妄想していたのが悪いのはわかっていますけれど、妄想を裏切らなかったのはあなた様だけです!素敵すぎます真田幸村!
はぁ…いやぁ、癒される…
ストレスよ去らば!的な。

な所に、猿飛さん現れるです。…癒しが相殺気分になった様な気がします。まだ怖いです。ついでに妄想していたのを怒られそうな目付きも怖いのです。「旦那、玉緒、さん御館様が呼んでる」と。

昨日、様付け拒否したので敬称は『さん』にしてくれる事になったんだけど、見た感じも聞いた感じも嫌そうですね。だけれど、私も『様』呼びされるなんて慣れなさ過ぎて、慣れることも無さそうだしなのでそこだけは猿飛さんに譲歩していただきました。因みにまだ呼んだことはありませんが真田幸村の事は幸村さんと呼んでいい事になっています。


「む、それは急がねば!おやぁかたぁさばあぁー!」と、真田幸村は限りなく元気に走っていった。耳痛いです!キーンとなった後に耳鳴りが…。ですが、可愛いですよね。本気で癒されてます。この辺りだと甲斐犬辺りが生息しているんでしょうか。たち耳にしっぽ…う…ん、似合いそうです。似合いすぎそうで悶えてしまいそ、うわわっ、自分がどんどんアホになってしまっています。危ない!危ないです。

ではなくて…私も行かなくては。と腰をあげつつ「お団子ご馳走様でした」と言うと「毒入ってるとか、思わなかった?」と。一瞬だけれど、思いましたとも!信用されてないみたいですし。今更だけれど、変な噂の尾ひれと明智軍の評判の悪さのせいなんですか。
それとも私が嫌われてるだけなんですか? …うえぇ、自分で思っておきながら嫌われているだとかショックです…



「一瞬思ってしまいました。すみません」
「素直だね。んじゃ、俺様も。軽いのを入れようと一瞬思ったんだよね〜」

「…ありがとうございます」
「なんで?」
「入ってなかったから、今私大丈夫なんでしょう?」
「…」
「?」

「そうだね〜」



と、やっぱり目が笑ってない笑顔で言われてしまいました。

因果な商売だなぁ…
まぁ、微量で飲んで回数分けて効いてくる。とかの類いだったら、一回じゃわかんないですけど。


…違うじゃないですか。
こういうのはダメです。いけません。猿飛さんはそんな事はしていないと言ってくれたじゃないですか。怖いけれど猿飛さんのこと信じたいです。

だいたい私はどうしてこんなに猿飛さんに対して怖い印象をもっているんでしょうか?自分でもびっくりですけれど、心当たり…ありませ、ありましたね。猿飛さんは仕事とはいえ私から見れば誘拐の実行犯ですから仕方ないですよね?寝すぎたせいか薬のせいか頭も鳩尾も痛かったですし。

ですが、自分が弱いから人を疑ってしまうのもあるかもしれません。私が弱いから信じられないのかもしれません。強くならなければ!と自己暗示をかけつつ自己完結しました。



***




武田様の所に行くと幸村さんと武田様に書状を見せられました。明智さんからの書状で要約すると『織田包囲の共闘にのってもいい』そう書いてありました。

ここで始めて一応、私は人質であったらしい事と(私もまだまだおめでたい人間だったんだと思いました。半分は巴ちゃんに会えたし本当の事もあったのだけど)、私が明智軍にとって人質としてとられるだけの価値があったらしい事に素直に驚いて、明智さん達が明智軍の人間として私を認めてくれていた事に涙が出そうになりました。

…明智さんに、利三さんに、秀満さんに、明智軍の皆さん。皆さんに会いたいです。

はい。だからと言って現実を過大評価しては明智さんの思うつぼなのです。私が人質だからとか関係なく明智さんにとっては『面白そうだから』とか『織田信長に関わる事だから(要はいじめたいらしい)』なんだろうと思えましたけれど。目に見える様ですもん。『ン、フフフ。拐かされるなんて貴女は馬鹿ですねぇ。ですが、褒めてあげましょう。信長公…ン、フフフフフフ…、フ』と斜めに傾いて楽しげに笑っているところが。

周りの人達は私に関して過大評価し過ぎで疲れますが、明智さんの変態ぶりをなめたらいけないのですよ。

と、ここからが私にとっては、重要だったんだけど…
武田様、
いま何をいいました???
本能寺とか言ってますか?
聞き間違いではないですよね。京都…山城の国の本能寺と言っていますよね。なんで?どうして知ってるんですか!?



「聞こえておるか?」
「…」

「玉緒殿?」
「あ、すみません。今、何をおっしゃったんですか?」

「明智光秀が起こす『本能寺の変』について…」
「…」



頭に血が上りそ…いや、上ってるんでしょうね。
冷や汗が出ているんじゃないでしょうか。心臓もドキンドキンと大きな音をたてていてそのせいか自分で鼓膜を殴っているような錯覚を覚えてしまっています。

言葉が、また日本語が難しいです。だからと言って奥州筆頭様のように英語が得意かと聞かれれば、得意ではなくそこそこなんですが、こんなにも言葉のみこめないなんて。

落ち着け、落ち着きましょう、私。いや、ですから、どうしてそんな事を知っているんですか。みんなそれを知っているのに『本能寺の変』なんて歴史の一大事が起こったというんですか。それを織田信長と織田軍だけが知らなかったと?…でも、明智さんだってそんな素振り微塵にだって…、

頭がぐらぐらする。天井が回って見えてる気がします。言ってることは、どう湾曲しようとも『本能寺の変』のことですよね。



「……」

「玉緒殿」

「え、はい」

「…巴殿が未来から来たとおっしゃられたゆえに、今回…」


「…、」



申し訳なさそうに声を掛けてくれるんですね。幸村さん、ありがとうございます。

あぁ、なるほど納得です。納得なのです。だから知ってるのですね。
はぁそっかー。うん。

そうですねー、確かに小学生だった頃でも『織田信長が本能寺の変で死んだ』くらいは私も巴ちゃんも知ってましたから、それを巴ちゃんは話してしまったと言うことなんですね。

巴ちゃんは10才前後だったし、まさに『本能寺の変』で織田信長が死んだ。という歴史の一部分を切り取ったような事しかわからなかったという事なんでしょう。

私は子供の頃から時代劇が好きでよく見ていたから子供の頃であっても私の方が歴史には詳しかったと自分でも思うから、それを巴ちゃんから聞いて今の私の状況に至っているということなんですね。

巴ちゃんが私がこういった形で巻き込まれると思わなかったのか?と突っ込みたくなるけれど、再会した巴ちゃんの本当に嬉しそうな顔からはそんな政治めいた取り引きを考えていたとは想像できないから、そこは巴ちゃんには話さずに利用されたというとこなんでしょうね。

政治的にドロドロとした所はなかった事にされてるんですね。巴ちゃんがどんなに大事にされてるかわかりました。


「其方を騙したのはこの通り謝るが戦国の世ゆえ許せ」
「…」



そうですね。そういう時代ですもんね。仕方ないと腹をくくらなくちゃいけない事もありますよね。
私も話してなかった事ですしおあいこですよね。
あぁ、だからあくまでクソの様な噂がただの噂であって色気話ではないとわかった訳ですか。

なるほど。だからそれで明智さんと竹中様が私を側に置きたがった。的に湾曲して勝手に納得されちゃったというところなんでしょう。



「…続きの話はまた明日としよう。よいな?」


「はい」



と、そこで武田様はさっきとは違う書状を私に手渡してきました。



「なんでしょうか?」

「其方宛だ」



それはこの時代の文字…なんでしたっけ?草書体でしたっけ?達筆すぎて初めは何が書いてあるのか私には全く読めなかった字体ではなく私には馴染みの深い楷書体で書いてありました。

この時代の文字が読めない私に明智さんが読み書きを教えてくれる代わりに、私は楷書を明智さんに教える遊びをここの時代へ来た頃からずっとやっていて、そこには教えていた私の書く字よりも細く繊細な綺麗な字で私の名前が書いてありました。

綺麗に折りこんではあったけれど、誰かが読んだらしいことは直ぐにわかって多分巴ちゃんにチェックさせたんだろうと思うけれど、この時代だと楷書体は暗号文に見えるだろうから仕方がないと思えました。


…坂本城に、明智さん達のところへ帰りたいです。
周りからどんなに悪評が高くても、どこか殺伐としていても、私がここにいる事を当たり前の様に自然に受け入れてくれて居場所を与えてくれてた大切な人達のところへ。ここの人達は明智軍のことを悪鬼の様に例えてたりするけれど、みんな泣き笑いもするしお酒の席で明智さんの愚痴を楽しく言い合っているような優しい人達だったし城下町の人達だって笑ってました。

そうですよ、みんないい人達なんです。…明智さんに、会いたいです。思わずハッと吐いてしまった息を必死に飲み込みました。



その書状には明智さんの綺麗な字で

『好き嫌いをしていると、後でお仕置きしますよ』

と書いてあって、今度こそ泣きそうになってしまいました。

20140224