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祭りのあと(参)

数日後。
山崎の戦いだ…
私がうろ覚えながら知っている事とは完全に違うのは明智軍vs豊臣ではないと言うこと。

天下に興味がない明智さんでも戦は好きなのはわかっているつもりだ。どうなるんだろう…。とうとう今日が来てしまった。

1582年の6月13日。
明智さんが豊臣方の人間に討たれたと言われている日だ。今まさに豊臣秀吉が天王山に向かったばかりで…。

私は天王山の近くに陣を構えた豊臣軍にいる。横には竹中様がいて逃げる隙を見つけられないでいるけど、竹中様はいつもよりも白くてなんだか具合が悪そうだった。

それでも声をかけられないでいるのは、『何も言うな。余計なことを言えば殺す』的なオーラをつき刺される様に出されているからで…というか、少しでも動く素振りをみせると睨まれ下手すると剣が喉元にあてられる。

時間の感覚がわからなくなりだした頃、竹中様が咳き込み出した。気になって動こうとするとまた刀が喉元に向けられる。

「今、逃げたりしません」
「『今』かい。君はつくづく信用ならないね。いい加減諦めたらどうなんだい」
「揚げ足とるのは止めて下さい」
「君は…」
「?」


その時、竹中様が鞭のようにしなる剣を近くの木をめがけてはなった。と思ったら人が現れた。

竹中様は私を背に庇うとよくは見えないけど、突然大きな金属音がして小さな火花が飛びかうのが見えた。ドクドクと早鐘を打つように心臓がうるさい。竹中様が背中で動くなオーラを出してくるけど、気弱な私はまず動くなんて事ができなかった。

巴ちゃんだったら「止めて」と叫んで止めるんだろう。と、回らない頭で思ってると目の前の竹中様が咳き込んで相手がすかさず刀を竹中様に降り下ろすのが見えて、

…気がついたら腕が痛かった。じゃない!う、うえぇ、いった!!!いったい!腕無くなった!?肘から下痛い!斬りおとされて…はないですね。すっごく痛いけど!うえぇ、あ、そうか。痛いから死んでもないんだ。

こんな、怖い。命のやりとりなんて。


「…いっ、」
「…」
「…いただ、う、…え?」


なんだろう。1番驚いていたのは、斬りつけてきた本人だったみたいだ。
直ぐにまた刀を降り下ろしてくると思っていた刀はピタリと動きを止めていた。
何故だか私が竹中様を庇うとは思っていなかったのか呆然と私と竹中様を見ているその人と目があった。この人…


「…あの、」

「…」
「七夜さんですよね?」
「…」

「咄嗟に手加減してくれてありがとうございます」

「…」

「そうじゃ、なかったら私は今、確実に死んでますから」

「…」


赤い着物は来てなかったし目元しか見えていなかったけど、七夜さん。…穴山小介(仮)さんだと思った。
大きく見開いて動揺していた目は直ぐに平静を取り戻したように見えた。平静を取り戻した七夜さんが私なんかの話を聞いてくれるかな。


「今は退いてくれませんか」
「…」

「お願いします」

「…」

「お願いします。退いて下さい」

「私は玉緒様の居場所を突き止めるのが仕事にございます」


「…え?どういう、」


そう言うと、七夜さんは私の返事は聞かずにあっと思う間もなく姿は見えなくなった。居場所?どういう…武田軍が私を捜してる?どうして?私はお気楽に考えていると言っていた竹中様の推測通りなの?…そうですよね、共闘の約束はもう切れているんですもんね。

「…」

「…」

いたっ、痛すぎて腹が立つ!
痛い以外の言葉が浮かばないけど、しっかりしなくちゃ。手加減してくれたとはいえこれは何とか止血しないと出血多量の方もヤバイ傷だと思う。だらだらと血が腕を伝っていく感触がする。神経が切れてないといいけど。とりあえず大丈夫だ。まだこうやって考えることができてる。落ち着け、落ち着け。

止血点はどこだったっけ?
肘の上あたりだったけ?


「…」

「君は何をやってるんだい」
「竹中様だって咄嗟に私を庇ってくれたじゃないですか」

「…」

「…い゛」

「…」

「え゛、いたただだだだだ!痛いっ!痛いです!鬼畜!鬼畜だ!」

「大人しくしたまえ。動くと止血しにくいだろう」

「だから、って痛いんですけど!」
「うるさいよ。もっと痛くしてあげてもかまわないんだよ。まずは縛らないと止血にならないだろう。馬鹿は休み休みにしたまえ」

「うえぇ、すみません。ありがとうございます。黙ります。大人しくします」

「君は馬鹿だね。死んだらどうするつもりだったんだい」

「大丈夫ですよ。私、竹中様の為に死ぬつもりなんかありませんから」

「僕だって玉緒くんに命なんかかけられるのはごめんだ」

「ははは。珍しく意見が一致しましたね」
「君と一致したところで嬉しくもなんともない」
「…そ、ですか。そうですよね」


…よかった。竹中様がいつも通りで。
とりあえず出血多量死は竹中様のおかげで免れそうです。竹中様流石です。と、お久しぶりな感動をしていた所で痛いのとは違う、いや痛いのは痛いんだけど、え?何だろこれ。変な感触が?

ナメられてる?じゃなくて舐められてますか!竹中様の赤い舌が腕をちろちろと蛇のようにだと明智さんみたいで怖い!
じゃなくて竹中様は止血が終わるとぱっくりと縦にひらいた傷口を舐めたてた。
うわわっ、恥ずかしい。なんだか恥ずかしい。何だか卑猥!シチュエーションがと言うよりただ竹中様がエロい!うえぇ、なに思ってるんだ私!何がどうなってこんなことに!動揺しかないんですけど!何かがパンクして爆発する!意味わからないけど!


「うわ、なにやって、…竹中様、何だか目のやり場に困ります!見ていいものなんですか!のたうち回りたいくらい恥ずかしいんですけど!」
「何だいそれは。意味がわからないね。消毒しとかないと化膿するかもしれないだろう」

「だからって、だったら、水かお酒で洗って下さい」
「嫌だね」

「な、」

「君は変な女人だね」
「失礼ですね。私でも傷つくんですよ」

「関わる事を拒否するくせに」
「…」
「平気でこういう事をやるのは何故だい?」

「…」

「理由を聞かせてくれないか」

「理由なんてありません。咄嗟のことです」

「君が咄嗟に動いていたのは否定しないけれど、君の行動にはいつだって君なりの理由があっただろう」

「…え」

「…ま、いいよ。指を動かしてみて」


「…はい」

「…」
「…うえぇ、痛い、です」
「動くようだね」

「あ、本当ですね。良かった!ははは」

「横に切れていたらどうするつもりだったんだい?お気楽に考えるのは止めるように言っただろう」
「…」

「彼は松永殿の時に幸村くんの影をやっていた忍じゃないのかい。僕だってまだ把握していないのに君は真田の忍を何人知っているんだい?」
「…知りません」

「君はそれが口癖の様だね」
「…」
「僕は忍が敵に任務を口にするのを初めて聞いたよ」
「え?」


そう言われれば確かにそうだ。七夜さんよく教えてくれましたよね。



***



「僕は」
「…」
「君を豊臣の為に殺すべきだと今は思っているよ」
「…」

「残念ながら僕にはもう時間がない。だけれどもう一度聞くよ。豊臣に来る気はないかい?」

「…」
「死にたい様だね…っ、ごほっ」
「私、竹中様と心中まがいなことは、嫌です」

「…」


なんだろう。以前見た嫌な夢そのままの場面に息がつまりそうになった。ゲホ、ゴホッと苦しそうに咳こむ竹中様の背をさすることしかできない。パンッと音をたててはね除けられてしまったけど。

どうしよう、どうしよう…、どうしよう。偽善的な言葉でも良いんだろうか。その方が人らしいんだろうか。間近に迫った死を受け入れてる人間に何を言ったら良いのか私は知らない。わからない。

豊臣はあなたの夢が叶って天下を取るんですよ。と言えば…いいのかな。竹中様の望む言葉は私には…


「…」

「僕は君と友達になるつもりはないよ」
「は?え?うっわ…うえぇフラれた!結構傷つくんですけど、断るなら思うだけにしといて下さい!」

「…」

「あれ?どうして?竹中様がそれを知っているんですか?」
「君、くりすますつりいに、書いていただろう」

「…………………あ、確かに」


そうでした。私、七夕クリスマスの短冊に『重虎様と友達になれます様に』と書いたのでした。後は、(明智さん)お坊さんになって欲しいです。です。


「よくわかりましたね」
「僕の初名だからね」
「…見られてるとは思いませんでした」

「…あれで隠しているつもりがある方がどうかしているよ」
「…うえぇ、バレていたなんて恥ずかし過ぎる!」

「玉緒君なんか傷付けばいいんだよ」

「…」

「…」

「…」
「命をかけられる事もかける事もそんなに嫌かい?」
「…松永様の話ですか」
「答えたまえ」

「私には背負える覚悟はもてません」
「…」
「とても重たいものだから…いえ、」

「?」
「竹中様達の時代があって私達は幸せに生きているので、」
「…聞かない約束はいいのかい?」

「ここだけの話にして下さい」

「そう。…ま、いいよ。続けたまえ」

「私がいた場所では命の奪い合いなんてものが誰しもとはいいませんが、心配しないで暮らせる世界で時代なんですよ」
「…」

「だから、目の前で刃を振り回したり、簡単に人が亡くなったり、私は見たことがないんです」
「…」

「人の命の重さが変わるとは思いません。だけど、たぶんそれは綺麗ごとで、たった一人の命の重さが戦国の時代とは違うんです、」「…」

「私にはそんな日常が普通の事で、それが当たり前の事なんだと幸せに育ってきているので、だから命はかけていいものでもかけられるものでもなくて、きっと私の頭は平和ボケしてできてるんです」

「…」
「…答えになっていますか?」
「…そうだね。僕には綺麗事にしか聞こえないけれど、今になってやっとわかったよ」
「何がわかったんですか?」
「明智くんがどうして君を側に置いたのかをだよ」

「え?理由…なんかあったんですか?」


坂本城で目を覚ました時に『貴女、面白いから飼ってさしあげますよ。ン、フフ』と恐ろしい事は言われたけれど…


「やっぱり君は馬鹿だね。彼は理由もなしに自分の身近に出所不詳の人間をおくような間の抜けな人間ではないんだよ」


開いた口がへ?の形で止まった。じゃ、なんなんでしょうか?それよりも意外と竹中様は明智さんのことを理解してる?


「君の今までの言動と君のいまの言い方を借りれば、この時代の人間は命を奪い奪われる事を仕方がないと思う覚悟が備わっているということなんだろう?」

「…はい」
「僕はどちらかと問われれば諦めに近いものもあると思っているけれど。だから、早く戦を終わらせる為に、弱く鍛えられていない者にもその命を守るすべを教える為に兵を徴兵制にしたのだからね」

「…」
「話がそれたけれど、織田信長を討つ為だけに狂ってしまった明智くんだ。命の価値がわからなくなっている人間は、命の価値をただそこにあるだけで、大切に思える人間に惹かれていたということなんだろうね」

「…」
「僕は君の事をここで生きることの覚悟を持てない諦めの悪い人間だと思っているけれど」
「…」

返す言葉もございません。
私は甘やかされていただけで、現実から逃げてばかりなだけだったんだろう。


「だけれど、明智くんにはこの時代の人間ではない君がこの時代の誰かが食べるべきであった食事を自分が口にしていることに耐えられず食事もとれないでいる君が、無垢な子供の様に見えて溺愛していたんだろうね」
「え、」
「どこに驚いたんだい?」

「私、溺愛されていたんですか?」
「君は馬鹿な上に鈍いようだね。やれやれだ」

「…鈍いのは否定しませんが…あ、誤解されてた様にですか?」

それはない!だって明智さんが愛しているのは煕子さんだもの。

「どうだろうね。どちらかというと子供に対する感情に近いと思うよ」

「…」

あの日、明智さんはもし次に会えることがあれば溺愛してくれるって。
…怖かったけれど、明智さんなりに大事にしてくれてたんですよね。人に言われて今さら実感できるなんて本当鈍い。どうしてその時に、私はわかることができないんだろう。

明智さん。どうしてるだろ?無事に生き延びて、お坊さんになってくれると良いんだけど。利三さんや秀満さんは史実通りなんてことにならずに生きていてくれれば…


「伊達軍も全体的にそうなんだろうね」
「…」
「巴くんは君と違って単純で心根が素直な人間の様だから、君の様にまでは暗くは考えていないかもしれないしこの時代で生きる覚悟をしていたからだろうけれど、」

「…」

「却って母親の愛情に飢えて育った政宗くんの様な人間には、かけねなしの感情を向けてきそうな彼女の様な人は本当にかけがえのない人間なんだろうと思うよ」

「…」

確かに巴ちゃんは無償の愛をくれそうなタイプに見えた。またまた今更だけど、竹中様すごいな。

そう遠くはない場所で戦が起こっている音がする。
竹林の中にいるからか地面の揺れと緑の竹がカタカタと音を鳴らして揺れている。


「…」

「…この先どうなるか聞かないんですか」
「聞かなくてもわかっているよ」
「え」

「秀吉が天下を取るに決まっているだろう」

「…」

「そして、君が言うような時代がくるんだよ」

「…」
「当たり前の事を疑問に思わないでくれたまえ」

「ははは、そうでしたね」

どうしよう、まずい、まずい、まずいよ。竹中様が咳き込み出す。さっきは、はね除けられそうた手は竹中様の背中をさすっている。もうそんな気力がないんだろうか。

どうしよう、こんなの、
嫌味をはかれてた方がずっとマシ。鼻の奥がツーンとし出したなんてこんな、縁起でもない。


「…っ、」
「僕を忘れたら許さないよ」
「な、」

「…」
「今、そんな話したくありません」

「…今しかできない話しだろう」
「…」

「僕に泣かされたりなんか、しないんじゃなかったのかい?」
「…泣いてなんかいません。目が痛いだけです。あ、腕が痛いんですよ。いたただだっ、思い出したら痛い!」

「呆れるよ。君の意地っ張りには」
「竹中様には、言われたく、ありま、せん」

「僕を忘れるな」

「…忘れたらどうするんですか」

「忘れないさ。君はそういう人間だ」
「…」
「どっちの言葉を選んだとしても君は忘れない。だからそのままの言葉を選んだんだよ」
「…」

「意味はわかっているだろう?」
「…」
「…」
「もし、元の世界に戻れる事があったらわかりません」
「…」
「私は、竹中様は、信じてはくれませんでしたけれど、忘れていることも多い、んです」

「忘れたらどんな事をしてでも玉緒くんに仕置きをしに会いに行くよ」
「は?どうやって…」
「君はここに来ることができたのに僕は行けないだなんて、」
「…」
「あり得ない話だね」

「…は、はは」

「…」
「どこからその自信はくるんですか?」
「どこだろうね」

と、竹中様は嘘くさくなく綺麗に笑った。こんな時に、こんな綺麗な顔で笑うなんてずるい。

「じゃ、忘れなかったら、来てはくれないんですか?」
「…」
「…」
「そうしたら、君が本当に忘れていないか確認しに行くよ」

「……」
「……」
「…はい、わかりました」

「僕は君を忘れない。玉緒くんも僕を忘れるな」
「…私は竹中様を忘れません。ですから竹中様も私を忘れないで下さい」

「約束だよ」
「約束です」

「…」
「…」


「わかっただろう?鈍いんだよ、君は、」
「…」
「僕はいつも君には本音だけを言っていたよ」

「…」
「腕は、悪かったね…、ありがとう…」

「竹中様にお礼言われた!どうしよう、うれしい!」
「…ぷっ」
「え、何がウケたんですか」


「わすれないで」

「忘れません!」

「…」

「…竹中様?」


私がそう言うと竹中様はゆっくりと目を閉じた。

もう目を開くことはないんだとすぐにわかった。
絶対できないと思っていた事をやってみる。竹中様が動く度にふわふわと動いていた髪にずっと触ってみたいと思ってた。

竹中様の頭をそろそろと撫でると髪の毛は細くて柔くて、大好きなうさぎみたいで、竹中様はまだ温かくって、

どれぐらい眠っている様な竹中様の側にいたのかわからない。去年の今日、初めて貴方に会った。
だから、今日と言う日が今年でなければと何度も、何度も、願ってた。だけれど、現実は甘くない。生きる覚悟を…なんて、竹中様に言われることになるなんて。

安堵なのか後悔なのか懺悔なのか、感情はぐちゃぐちゃなのに、

何かがぽっかりとなくなった。
ただ、ずっと竹中様を見てた。

話している間はあんなに必死に涙を我慢していたと思うのに、もう我慢なんかしなくてもよくなったのに、涙なんか出てこなかった。

20150831