七夕クリスマス
「なんでしょうか。これ…」
「は?」
はい。言葉にうっかり出てしまいましたけど素直な感想でございます。松永様の1件から1日経ちました。先日の殺伐とした雰囲気から一転して朝からほのぼのとしています。
約2メートルの高さの多分もみの木風なものに、てっぺんにりんごが刺さってて…これだけならなっちゃってクリスマスツリーなのかな?と思えなくもないんですが、飾りつけされるはずのオーナメントはそこにはなく色とりどりの短冊がひらひらと風に揺られて飾られています…
隣に居たのは成実さんで出てきた言葉は「あんた『くりすますつりぃ』しんねぇのか?」で突っ込みが思いつかなくて黙っていると「あんたも願いごと書くか?」と。
クリスマスツリーに願い事を書くのがここでは普通なんですか。私が知っているクリスマスツリーとはかけ離れていますし、願い事を書くのはどちらかと言わなくても七夕祭りの方じゃなかったですか?とただ今アタマが小さく混乱していますです。
「なに固まってんだ?」
「…あの、これなんですか?」
「それ言ったばかりだろ。聞いとけよ。これは『くりすますつりぃ』だ」
「は?」
「なんだ?やっぱり知らねぇのか?あいつは知ってんのにお前は知らねぇの?」
「え。知っていますけど…。私が知っているクリスマスツリーとは、ちょっと(というか、だいぶ)違うような…。巴ちゃんは何も言っていなかったですか?」
「毎年やってんだから、違うことねぇだろ。だいたいあいつが始めたことだからな」
巴ちゃん…何故間違いを正さなかったんだろう。
の前に、巴ちゃんが始めたのならどこをどう間違えてこうなってしまったんだろう…?
これはどう考えても素直に七夕が混じっていますよね。まぁ、気の持ちようだし楽しそうだからいいのかなぁ?
流石奥州伊達氏。未来で七夕祭りが有名な所のお祭り?ですね。今の伊達様の居城が何処かは知らないですけれど。
「あの、…時期が違うとか、えーと、ないですか?」
「あー、政宗の体力回復祈願も込めて早くやろうって事になったんだよ」
「…え、」
それ、最早クリスマスと呼べる代物ではないと思われるのですが。
クリスマスも七夕祭りも関係なくなっていますよね。突っ込みどころが満載過ぎてどうしたらいいのやらです。もうこれって何かの祈願祭か何かになっちゃってないですか。
「えーと、そうですか」
「なんだ?まぁ、いいや。あんたも何か書けよ」
「成実さんは何書いたんですか?」
「俺か?俺も今からだ。ま、決まってっからな」
「何ですか?…あ、伊達様の回復祈願ですから伊達様の、」
「武運長久と文武両道だ」
「え?」
「なんだよ?」
「それ、伊達様と全く関係なくないですか?伊達様の回復祈願なんですよね?」
「いいんだよ。あいつこんな事で死なねぇから。俺は俺の願い事で」
「そういうもんですか、」
確かに。と言いますか、本を読んだ記憶が相も変わらずうろ覚えですけど伊達政宗のイメージはゾンビ並みに死なない人。だった気がします。
回復祈願ではないのでしたら感覚としては七夕祭りに近い感じなんですかね?慶次さんを筆頭にはしゃいでる人、もうお酒を飲んでる人がいたりと楽しみたいだけの人の集まりに見えなくもないですが。
「あいつもう歩けるぐらい元気になってただろ。小十郎とやりあってはいたが致命傷になんかするわけねぇし」
「…」
そう言えばそうでしたね、
片倉さんとやりあってはいましたけど、その前にも私の部屋の襖をスパーンと開けて愉快にご登場でしたし片倉さんが伊達様に致命傷になるような傷を負わせるわけなかったですね。
おぉ!成実さん流石伊達軍の有名武将!伊達様の幼なじみ!
「げ。これなんか(短冊)ひでぇな。ぶははっ」
「?」
短冊を見ると…さあ、誰の短冊か当ててみよう!な気分になりました。
団子。とか御館様!!!とか、
これは幸村さんですよね。素敵です。可愛いです。
給料あげて!とか…
これは猿飛さんですか?
謙信様…とか、
これはかすがさんかな。ピンクに染まる空気を一度拝見したいです。
恋!とか犬千代様!とかまつ!とか
これは慶次さんと前田家の方なのでしょうか。
日輪よ!とか
富嶽完成!とか
ただかーつ!とか
にちりん?ふがく?ただかつ?
お日様、富士山、どなたかの名前ですか?さっぱりです。
敵は本能寺にあり。とか。
これは明智さんですか。こんな所でバラしてどうするんですか。ふーんだ。明智さんのバカ!
後はすごい小さな字で
光秀様に心の中でだけでも勝利したい。とか打倒!光秀様に妄想でも勝利を!とか、
捨て駒脱出。とか
前者は明智軍の方達なのはわかりますけど、え?秀満さんじゃありませんよね?ヘタレ過ぎて切なくなってしまうんですが。違うと思いたいです。大体妄想でも…って涙を誘うんですがもしかしてウケねらいで笑うところなんですか。
が、捨て駒とは一体…?謎の言葉です。
共闘する軍からも集められているらしいですからお国柄なんでしょうか。不思議なお願いごとも多いのかもしれません。
もちろん政宗様の平癒とかもあったけど、これは片倉さんと巴ちゃんなのかな?
「愉快な事になってますね」
「楽しい方がいいだろ?湿っぽくしてたからって、なる様にしかなりゃしねぇしよ」
「そうですね」
竹中様もなにか書いたのかな?自分の病気のことなんかは絶対かかないだろうけど…あ、やっぱ豊臣秀吉に天下!的な事を書いてるのかな。
…おぅふ。片倉さんと巴ちゃん達の周りに淡い桃色の霞が見える…。かすがさんもこんな感じなのでしょうか。
なんでしょう、結界ですか?
半径5メートルくらいの間に慶次さんですら近づけない結界らしきものができています。
成実さんが伊達軍の方に呼ばれていなくなったのでそれを遠目に見ながら縁側でひとりお茶をすすっていると伊達様が来ました。体力回復してきたんですね。良かったですが失礼がないように変に笑わないように気をつけないといけません。
「HEY、玉緒。あんたは書いたのか?」
「はい。書かせていただきました」
「何書いたんだ?」
「普通のことです。伊達様はもう書いたんですか?」
「Yes!of course!書いたことはsecretだけどな」
「はぁ、そうですか」
私の腹筋、頑張れ!
勝手に変に脳内変換されて『別に教えたいわけじゃないんだからね!』と何故だかツンデレ変換されて笑いだしそう…
それにしてもよく皆さん伊達様の英語がわかりますよね。もっとしっかり勉強していればよかったです。私は所々わからな…
「……」
「どうかされましたか?あ、まだ傷が痛むのでしたら」
「HA!普通、何書いたか教えて下さいと会話が繋がってくもんなんじゃねぇのか?あんたが教えて欲しいって言うなら俺は教えてやってもいいんだぜ?」
「は、い?」
ぶはっ。ツンデレきたー!
分かりやすいツンとデレがきたー!
竹中様と同じツンデレきたー!いやいやいや、竹中様のは飴と鞭ムチ鞭でした。
笑っていい?笑っていいですか。て、伊達様は寂しがり屋さんなんですか?
「ナニ書いたか教えて下さいませんか」
「興味ねぇんだろ。棒読みしてんじゃねぇよ」
「あ、あれですか。桃色結界に阻まれて2人の所に行きそこなった感じですか?」
じゃなければ、伊達様がわざわざ接点無しの私の所に来るわけがないですよね。初対面の時だって変に噂に尾ひれがつきまくってた私に会いに来たんではなくて巴ちゃんに私を会わせて大丈夫かを確認しに来ていただけだったみたいですし。
「…そんなんじゃねぇ」
「…ふはっ。図星ですか」
「馬鹿にしてんのか。邪魔したくねぇだろ。幸せそうにしてるところをよ」
ん???あれ?
あれれれれれれ?
「それは、どっちのですか?どんな意味で言ってます?」
「!?」
おぉう。ありゃりゃ。あからさまに驚いてるなぁ。今までストレートに突っ込む人がいなかったんですか?うえぇ。余計なことを言ってしまったのかもしれません。巴ちゃんは片倉さんしか見えていないようだけど、巴ちゃんだけが知らない三角な関係だったりしたんですか。
巴ちゃんの為にもめなかっただけだったりしますか?伊達様が身をひいたとか?そうだったらますます凄いよ巴ちゃん。
「…」
「…」
「変な誤解はするんじゃねぇ」
「…」
「俺はあいつがここに来た頃、泣いてたの知ってるから」
「…」
「幸せそうにしてるのが嬉しいだけだ」
「そうですか」
「それだけか?冷てぇな」
「巴ちゃんを見ていたら、伊達様の所で大事にされていたのが現在進行形で疑いようもなくわかりますから今更過去の事を心配したりなんかいたしません」
「それはあんたがわかってねぇだけだからだろ。あんたの事を心配して泣いてたんだぞ。長い間どこにいるとも知れねぇあんたを巴はずっと捜してた」
「…」
「見つかったあんたはよりにもよってあの狂気じみた明智の野郎なんかの所にいやがったしな。いつもは戦に着いてくるなんて我が儘は言いやしねぇくせにあんたを心配して今回は怒鳴り付けようが何をしようと折れやしなかった」
「…」
「俺はもうあいつの泣いた顔なんか見たくねぇんだよ」
「…」
「あんな狂った野郎のとこに帰るより」
「…」
「伊達に来いよ」
巴ちゃんの為にですか。
巴ちゃんがどんなに大事に思われているのかが改めてよくわかって良かったです。
伊達様は巴ちゃんが絡むと意外とわかりやすいタイプだったんですね。
明智さんももっとわかりやすければいいのに。
本人が1番気にもしないことはわかってるけど、天下のためにみんなで明智さんを謀反人にするんですよね。
私には人を責める資格が1番ないけれど。
竹中様はあぁ言ってくれたけど1番酷いことをしたのは私なんだから…
責められるならまだいいです。
斬られても仕方ありません。
無理やり帰っても私の居場所なんてもうないのかもしれません。
このまま逃げ出して楽になりたい気持ちがないと言ったら完全に嘘です。
…でも、明智のみんなに一目だけでもいいですから、
一目だけでもいいですから明智さんに会いたいです。
一目会って、謝りたいです。
「…」
「?」
「はぁ…、ありがとうございます。迷ってましたけど、伊達様のおかげで冷静になれました」
「じゃあ、」
「私、明智さんが待ってくれていなくても坂本城に帰ります」
と言うと伊達様は目を一瞬大きく見開いた後なんだか例えようのない顔をしてた。
20150201