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密約 (伍)

数日後の晩。
明智さんの戦はまだ終わらないらしく、私は武田家預かりな立ち位置になっているらしいです。明智さんは元気でしょうけど、利三さんや明智軍のみなさんは大丈夫でしょうか。…あと、秀満さんが変に気に病んでいないといいんだけど、大丈夫でしょうか。うわわっ、秀満さんが心配になってきました。私が元気にしている事が伝わっている事を願うばかりです。

ここ数日、巴ちゃんから私の方が歴史に詳しいと聞いていたのか『本能寺の変』について直接的にだったり回りくどかったりと何度も聞かれたけれど、記憶を所々なくしているから詳しくはわからない。をうりしにして、沈黙を保ちつつのらりくらり疑われない様にかわしてる中、巴ちゃんも織田→豊臣→徳川の天下の流れは天下取りに名乗りをあげている人達に話すと不味いと思ったのか話していないのを聞きました。話してしまったのはまさに『本能寺の変』が起こる事くらいみたいでなぜそれを話してしまったのかは、時代をそこを中心にどの辺りかを覚えていたからだそうです。

そうですね、納得です。
パニクっている時は自分のわかっている事にすがりたくなるものですもんね。いま思い返せば私は、明智さんが死神として怖くても明智さんがあの明智光秀なんだと、本人を知らなくても知っている名前にわからない現状のなかから折り合いをつけ様と必死になっていたと思います。

ここ数日で動きのあった事といえば、驚いたことに共闘の話に興味を示した豊臣から数日中に使者を寄越す。と書状が届いたことです。竹中様の事は覚えていても歴史上の細かい事はやっぱり覚えていないものだと実感したりしています。

その話し合いが済めば、一先ず奥州に帰る伊達様達に一緒に来い!的な誘いを何度もされていて、答えが出せないまま微妙な気分の浮き沈みを繰り返してたんだけど、ちょっと浮上してます。

それもあってか巴ちゃんも何かと気にかけてくれる成実さんも忙しいのかなかなか会えなかったりで一人の時間が長かったりしているのですが、誰が来るんでしょうか?
豊臣秀吉自らなんて事は無さそうですし竹中様も無さそうだから石田三成辺りを見られたら嬉しいんですけど!と、テンションをあげてみましたけれど、遠目に見た石田三成も綺麗な銀糸なのか白髪なのかだったのを思い出して明智さんといい竹中様といいあまり相性がよくないかもしれない…と、勝手に苦手意識をもったのを思い出してしまって無理に上げてみたテンションがだだ下がりしたりを一人繰り返しています。



***



翌日、朝。
何やらもう豊臣からの使者さんは、やって来ているらしいです。闇に紛れるように来たらしくてもう武田様や伊達様達と軍議中らしいです。

誰が来たんでしょうか。
巴ちゃんは「豊臣秀吉かな?どう思う?」と聞いてきたけれど、あのゴリさん…もとい豊臣秀吉が自ら来るんでしょうか。

昼過ぎになって、巴ちゃんと共に軍議に顔を出す事になり「女が軍義なんてとんでもない」と断っていたら呼びに来た猿飛さんに只今ずるずる引きずられながら部屋に向かうことになってしまっている私の扱いって一体…という状況になってしまっています。

「誰がおみえになっているんですか?」
と、無邪気に聞ける巴ちゃんが羨ましいです。猿飛さんと普通に会話できる巴ちゃんはすごいな。と、思ってたら猿飛さんの笑顔と目があいました。



「?」
「…」

「なんでしょうか?」
「何考えてるの?」

「え?猿飛さんと自然に会話できる巴ちゃんは凄いな。と、感心してました」
「酷い言われようだね〜。俺様そんなに酷い?」
「え?本気で言ってるんですか?」

「は?」
「無意識なんですね。巴ちゃんと差がありまくりですよ。今のところ毒を含んだ会話しかした記憶がないですし、今だって猿飛さんにずるずる引きずられているじゃないですか」

「なかなか言うね〜。だけど、それは言うこと聞かない君が悪いんでしょうが。俺様は仕事してるだけじゃん」

「私だって行きたくない意思表示くらいはしたいんです」

「わがままだね」
「我が儘になるのでしたらもっと分かりやすくわめき散らしたり柱にしがみついたり駄々こねてもいいですか」

「面倒くさいからやめて」
「ほら、酷いじゃないですか」
「あは〜」



と、猿飛さんと今まで通りに会話してると若干巴ちゃんにひかれた模様です。
なぜだろう?と、思っていたらあえなく部屋に到着です。心の準備なんてものも何もできない内に到着してしまいました。本当は誰が来てるかなんて事よりも軍義に参加することの方が嫌なんですが…
よし、ここは腹をくくりましょう。テンション上げましょう!誰が来てるのか楽しみなのは本当ですからね!誰が来たのかしら〜?と、開けられた襖から入ろうとすると、とんでもない思わぬ人と目があってしまいました。



「…」

「…」



あ、なるほどです。
時が止まる様な瞬間とは今の様なことなのですね。
息をするのもまばたきをするのもしっかり忘れていました。

ついでに体も素直な反応をしていて敷居を跨ぐのを無意識に躊躇してしまいました。足が入るのを嫌がります。なぜ貴方様なんですか?

相変わらずの微笑みが素敵すぎて心臓がおかしな事になってしまいそうです。
どきどき、どくどく、変に心臓が踊り始めました。

うえぇ…はぁ…お久し振りですね。なんて気軽に言える様な空気ではありませんよね。遠目にでも見られることを希望していたのですが、逃げにくい状況のうえ隣の席だなんて…

円になってる指定された席に猿飛さんに促されるままつく。詳しくは知らないですけど、円卓の騎士みたいですね。座ってるのは座布団だけれど。前田慶次さんが見るからに不機嫌な顔をしていますね。はぁ…気が重いです。

順番は武田信玄→伊達政宗→巴ちゃん→私→竹中半兵衛→直江兼次→前田慶次→真田幸村→武田信玄。みたいな円く座る感じになっています。

少し下がった所に片倉さんと成実さんと猿飛さんとナイスバディなかすがさんがいました。小説より奇なりと聞いたことがありますが、現実は聞きしに勝るナイスバディ過ぎて目のやり場に困ります。幸村さん、これは破廉恥ではないのですか?とツッコミをいれたくなりましたけど、もう見慣れて麻痺しちゃってるのかもしれませんよね。と、自己完結。自分でも思っていて意味わかりませんが大きな胸が服から零れています。露出が嫌味にならないのがスゴいです。ひとことふたことでもいいから話してみたいですが、そういう雰囲気ではないのでチャンスがあれば頑張って自己紹介くらいは何とかしたいです。

ナイスバディかすがさんの名物は、上杉謙信様がいないので残念ながら見られそうもありません。いつか空気まで染めあげて桃色のお花が咲いている所を見てみたいものです。もちろん遠目に。

と、重圧から意識をそらそうと頑張ってみていたのですが、何だろ…うん。オーラ(なんてものがわかる訳ではないけど)が空気の冷んやり度が、UPしてる気がします。私の方を見もせずに、「久し振りだね、玉緒くん」と投げかけられた竹中様の声色が初めて聞くような冷たさをしているのは、気のせいですか。気のせいじゃないですよね。
なんでしょう、不味いことをしでかした様な気がします。いえ、こんな再会のしかたなのですから不味い事には違いないのですが、ヤバいにおいがぷんぷんムンムンします。明智さんでつちかった何かが逃げろと叫んでいるのですが、逃げられません…ね。



「…」

「…お久しぶりです」
「…」

「…」
「巴くん。初めまして」

「初めまして吉広 巴と申します」
「不躾だけれど、君は僕の名前を知っているかい?」

「え?竹中半兵衛様ですよね」
「そうだね」
「?」

「玉緒くん。君は僕の名前を知っているかい?」
「名前ですか?」

「答えたまえ」



巴ちゃんに対してと口調が違い過ぎじゃないですか。巴ちゃんには優しげな笑みを浮かべていたじゃないですか。猿飛さんといい竹中様といい何故なんですか…。ヘコむ。マジヘコむんですけど、これでいいんですよ、モブですもん。モブ希望ですもん。

周りからの興味を示す視線の重たさに声がうわずりそうになるけれど、今までどんな話しをしていたのでしょうか。私には竹中様の質問の意図が全く理解できないです。答えを待たれている空気がまた重たくて息がつまりそうですが、考えもなしにこんな質問を竹中様がする様には考えられなくて答えても大丈夫なんだろうかと不安がよぎります。



「…」
「答えを聞くまでこのままだよ」
「…」
「…」
「重治様ですよね」
「そう…だね」
「え、その言い方ですと間違っていましたか?」



カナリ自信があったんですが。ただ、答えてしまったのは直ぐに失敗だったのを実感しています。竹中様の事は記憶をなくした所以外は、間違って覚えていない自信があったんですけれど、失敗でした。私は竹中様に名前を名のられた記憶がなかったのを思い出したからで、なにかしらを試されたのだとわかったからです。

竹中様の含み笑いが背筋を凍らせるので、やっぱり逃げてもいいですか。猿飛さんの様な方からは逃げきれないと思いますけれど、明智さんのおかげで今は咄嗟の逃げ足にだけは自信があるのです。ここにはこう言った事から私を助けてくれる人が誰もいない事を実感できていたとしても。



「…」

「僕から逃げようだなんて馬鹿な事を考えている顔をしているよ」

「えぇ!そんな、どうして、バレ…」
「バレ?なんだい、それは。もしかして本当に考えていたのかい。君には本当に呆れるよ」

「さようですか、あきれられてますか」

「十分過ぎるほど呆れているさ。だけれど、答えはあっているよ。半兵衛は通称だからね。ただ僕は君に名をなのった記憶はないよ」
「うえぇ、ええと」
「…」
「そうでしたっけ…?誰かに聞いたような?あ、たぶん明智さんに、」

「黙りたまえ。興味深い事を聞いたよ。とてもね」

「…」


「玉緒くん。君は先の世から来たらしいね」

「…、」



逃げろの警報の理由はこれでしたか。

分かりやすく周りがざわめいています。そうでしょうね。言ってなかったというか、全体的に関わるの止めようと決めてたから隠していましたし。どっちかと言うと竹中様のような人が『人が未来から来た』なんて絵空事の様な話を信じる事の方が私には驚きでした。

今まで竹中様がそれを知っているの前提で話しが進んできたのが、はっきりとわかりました。周りの顔を見れば一目瞭然です。

流石、知らぬ顔の半兵衛なんですね!と、尊敬の念を抱きつつ感動しましたけど、余計に逃げ出したい気持ちが倍増しました。いえ、倍どころか何十倍もです。


「君は何を知っているんだい?」


と、トゲのある言い方が怖すぎます。何も話してはいないけれど、どうやらそれなりに詳しいのがしっかりとバレてるらしいです。朝からの時間を考えるとそれは当たり前だと思うべきですね。私の考えが甘すぎでした。
周りも竹中様の軍師たる顔を目の当たりにして沈黙。竹中様も沈黙。私は…ただ単純に言葉がなにも浮かばなくて沈黙。こうしている間にも竹中様が何かを思案しているだろう事に心臓がうるさいくらいに脈打っていました。



「…」

「知っている事をはいてもらおうか?」

20140228