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翌日。

わたし、そんなにうっかりさんじゃないのに。
お弁当を忘れるなんて。

これは、どこかに落としてきたとかいう話ではなく、完全にわたしのミスだ。
持ってきた記憶がない。

そして不運なことに、財布も忘れてしまった。
せめて購買でパンの一つぐらい買えたらよかったのに。
生徒に混ざって購買でパンを買うのも、難易度が高いけど。


ということで、中庭の人気が少ないところにやってきた。

だれもわたしのことなんて気にしないだろうけど、お昼も食べずに教室でじっとしてるなんてどう考えても浮きそうだし。
ここなら一人でいても誰も怪しまないはずだ。
空腹は我慢するしかない。


「お!うっちゅ〜☆おまえどっかで会ったよな!」
「……!」

この学校の人は急に現れるからわたしの心臓に悪い。


「あの」
「待って!思い出すから!えーっと、確か宇宙人、じゃなくて、それっぽい感じの」


全然それっぽくないのだけど、一応待つことにした。
今日の彼はパーカーの上にブレザーを着ているので、ちょっと雰囲気が違う。


「そうだ、名前だ!そうだろ?そんな感じだったはず!」
「そうです」


正直、忘れられたと思っていたからちょっと意外だった。


「よかった〜!久しぶりだな☆おまえ、こんなところでなにしてんの?」


なんて答えたらいいんだろう。
お弁当を忘れて教室にいるのが辛いからここまで避難してきた。
というのが、事実なんだけど。


「時間が経つのを待ってます」


悩んだ末にそう答えた。間違ってはいないから。

しかし、それに対する反応は返ってこない。
風が木々を揺すって、さらさらと葉っぱの音がする。
それぐらい、静か。


「このまえの話なんだけどさ」


急に彼が口を開いた。
この前の?
この人と会ったのは一度だけなので、そのときの記憶を振り返る。

なにか、話をしたっけ……


「おれがおまえを必要だって言ったらどうする?」
「へ?」


あのときの顔だ。
急に彼の顔から笑顔が消えて、鋭い瞳に見つめられる。
心の中まで全部、見られてしまいそうで、こわい。


「ああ、そうだ!ちょっとお願いがあるんだけど、これとこれ、どっちがいい?」


しかし、彼はまたいつものテンションに戻って、二枚の紙切れをわたしの前に突き出した。
なんだろう?
ぱっと見た感じではそれが何なのかわからない。


「えっと、じゃあ、こっちで」


適当に右の紙を指さす。
彼はそれを見て満足そうに笑った。


「こっちだな☆わかった!助かったよ、ありがとう!」


そのまま、走って去っていく。
え、ちょっと待って、なにを選ばされたの。

と思ったときには、もう彼の姿は見えなかった。