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「ボタンならいくつかあるんや。これとかどう?」


彼はどこからかボタンコレクションを取り出して、その中からピンク色のかわいらしいボタンを選んでくれた。


「かわいいです」
「せやろ?おれがつけたる!」


一瞬迷ったけど、彼が楽しそうなのでお願いすることにした。

カーディガンを脱いで渡すと、彼は裁縫セットを取り出して慣れた手つきでボタンをつけてくれる。
男の子にボタン付けをしてもらうなんて……なんだか複雑な気分だ。
裁縫、得意なのかな。


「ほら、できたで〜!」


カーディガンを受け取る。
両手で持って広げてみると、一番上のボタンだけ薄いピンク色のボタンに変わっていた。
一つだけ違うのに、違和感はない。


「ありがとう」


今日初めて話したばかりのわたしに、どうしてこんなに親切にしてくれるんだろう。


「……名字さんやろ?」


戸惑いがちに聞かれたので、頷く。


「あなたは……?」


わたしが問いかけると、彼は少し迷ってから答えてくれた。


「おれは、影片……みか。平仮名で『みか』や」


影片くん。
控えめだけど、笑うと人懐っこくて優しい人だ。


「こわいっていうの、おれもちょっとわかる」


影片くんが視線を逸らして呟いた。
みんなの前で泣いてしまった日のことを思いだす。


「こわいことばっかりやな〜、ここにおると」
「そうですね」


彼の瞳はとても綺麗だけど、あまりじっと見つめないほうがいいのかもしれない。

胸元のピンク色のボタンは、小さいけれどわたしの“特別”になった。