なくなるのは消しゴムだけだと思っていたのに。
帰ろうと思って靴を履き替えていると、カーディガンの一番上のボタンがないことに気づいた。
いつからなかったんだろう。
でも着たときはあったから、今日なくしたのは確かだ。
登校中に落としたとしたら範囲が広すぎて探せないけど。
学校にいる間なら教室しか心当たりがない。
なぜならわたしは基本そこから動いていないから。
ボタン一つのために教室に戻るのは億劫だけど、お気に入りのカーディガンだし、予備のボタンがないからできれば見つけたい。
わたしは教室に引き返した。
*
もうだれもいないかと思ったのに、教室には男の子が一人残っていた。
日直なのか、席に座ってなにかを書いている。
わたしは彼に気づかれないようにそーっと教室に入って、自分の席の周りを調べた。
……落ちていない。
念のために机の中も見てみたけどなかった。
どこで落としたんだろう。
「なに探しとんの」
急に話しかけられて吃驚する。
まさか話しかけられるとは思っていなかったので完全に油断していた。
机の周りをくるくる這いまわっている姿は、はたから見たら声をかけずにはいられないおかしさだったのかも。
「ボタンが……」
胸元を押さえる。
クリーム色のカーディガンなので、ボタンの色も薄い黄色。
床に落ちていても目立たないかも。
「落としたん?ここで?」
彼は席から立ってわたしのもとへと来た。
「わかりません。でも、わたしここから動いてないので」
床に座ったまま彼を見上げる。
よく見ると彼の目は右と左で色が違っていた。
綺麗な瞳だ。
思わずじっと見つめていると、困ったように視線を逸らされた。
「なさそうやな〜……小さいボタンやし、もうどっかいってしもたんかも」
一緒になって机の周りを探してくれたけど、やっぱりどこにも見当たらなかった。
「せや、ちょっと貸してみ?」
「え……?」
突然のことに身構える。
貸してって、なにを?
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