「ちょっと待って……ねぇ、ま〜くん〜」
凛月に呼ばれてやってきたのは、よく見る人だった。
この人が『ま〜くん』……さん。
凛月を連れてきたり、逆に連れて帰ったりするところを何回も見た。
「なんだよ。何か用か、凛月?」
「消しゴム貸して〜……って、名前が」
途中でこっちに話を振られる。
二人の視線がこっちに向いたので、わたしは息を止めた。
いやだめだ、呼吸しないと。
「名字さんが?」
「ごめんなさい……忘れたみたいで」
凛月の目は見られるのに、他の人の目はまだ見ることができない。
だからすぐ目線を下にうつしてしまう。
「そんな顔すんなって。予備もあるから自由に使っていいぞ〜?」
わたしがどんな顔をしていたのかは知らないが、彼はちょっと笑って、自分の消しゴムを貸してくれた。
お礼を言わないと。
「ありがとう」
「名前、さっきまで使ってなかった? なんか消してる音が聞こえたんだけど」
凛月に言われて首をかしげる。
彼が起きてたのか、寝ていたのかはこの際どうでもいいとして。
あれ?
そういえば消した記憶がある。
もしかしてどこかに落としたのかな。
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