「おれのことを好きって言って。名前の口から聞きたいんだ」
わたしが黙ったせいで、レオくんがもう一度同じことを口にする。
聞こえなかったわけじゃない。
むしろはっきり聞こえすぎてフリーズしたというか。
好き?
好きって?
好き、好き、
「えっと」
「好きじゃないのか?熱があるくらいで曲が書けなくなるようなおれなんて、必要ないってこと?ごめんな、すぐ元気になってたくさん曲書くから」
「違うよ!」
レオくんの瞳から光が消える。
なんでそんなこと言うの。
レオくんは自分のことを自分で消すのが得意。
いつもそうだよ、もっと自分を前にだしてよ。
「レオくんの作る音楽も好きだよ。でもそれが目当てで一緒にいるわけじゃないから。わたしはレオくんのことが」
そこまで言って、涙が頬を伝うのがわかった。
だれのって?
わたしの涙だ。
どうして泣いてるんだろう。
泣くことなんてめったにないのに。
「好き、だから」
言葉にしたら余計に悲しくなって、涙は止めるどころか勢いを増した。
「泣かせてごめんな」
レオくんの手が伸びてくる。
その手が涙をすくっても、わたしは微動だにしなかった。
「だって、好きなんて、わたしは軽い気持ちで言えないよ」
大好きだ!愛してる!
って、レオくんはいつも言ってくれるけど。
そのすべてに返したくても、返すことができない。
わたしはたった二文字の気持ちを伝えることすらできないの。
「その言い方だとおれの好きは軽いみたいだけど?」
「そういう意味じゃなくて」
「わかってるよ。ごめんごめん。名前が泣いてるの初めて見たかも」
そうだね、レオくんの前で泣くのは初めてだ。
嬉しそうに笑うレオくんが、涙のせいで霞んで見えて、そのままどこかに消えてしまわないか不安になった。
風邪ぐらいでこんなこと言うの、おかしいってわかってる。
わかってるけど。
「レオくん、死なないで」
彼の手をぎゅっと握ると、わはは、といつものように豪快に笑ってくれた。
「熱がでたぐらいでか?死なないから安心しろ!おれは名前とリオがいる限りここにいるから」
熱があるくせに無駄に頼りになる言葉だった。
言葉には力がある。
特に好きな人からの言葉には。
「好きだよ」
だからわたしの言葉にも魔法の力があるんだ。
この言葉でレオくんが元気になってくれるなら、今日ぐらいは何回でも言ってあげる。
馬鹿みたいに「好き」を繰り返すわたしに、レオくんは少し残念そうな顔でわたしの手を握ってくれた。
「かわいいな。熱がなかったら押し倒してたのに!」
熱があってよかったよ、まったく。
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