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- ナノ -

教室に戻ると、みんなはそれぞれ自由に過ごしていた。

まだ担任は来ていない。
わたしが戻ってきたことに気づいた人もいたけど、なにもなかったかのように各々自分たちの世界に戻っていった。

わたしは自分の席に座った。
隣の席の凛月は、寝ているのか、顔が見えなかった。


わたしはこれで完全に無視される?
教室の空気になれる。
それはわたしが望んでいたこと。

静かに一か月を過ごして、きれいさっぱり清らかな気持ちで学校を辞める。

清らかな気持ちで?
本当にそれが心地いいと言えるのか。


――名前がここに『いたい』とおもうかが『たいせつ』です


わたしがここにいたいという気持ち。
どうやったらそれが伝えられるんだろう。
せっかく背中を押してもらえたんだ。

言葉にする以外に、どんな方法があるっていうんだろう。


「わたしは」


席を立って、大きく息を吸って声を出した。
途端に、視線が集まる。

こわい。

今度の視線は、なんだかいままでのものと違った。
一瞬で悪者になった気分。

けど、ここで逃げたらいつもどおりなんだ。
これ以上、先に進まないと変わらない。


「わたしは、こわいです。みんな……」


言葉に詰まる。
鼻がつんとする。
涙が出るかもしれないと思った。

ここにいることがわたしにとってどれくらい勇気がいることなのか。

同じ色のブレザーを着ていても、同じにはなれない。
同じ教室にいても、同じ空気を吸えない。
みんなには共通の話題があっても、わたしにはついていけないし。
わたしには輪に入っていくような積極性もない。

男子と女子ではやっぱり違うことが多くて、これまで男子だけで過ごしてきたのに、そこにわたしを放り込まれたって、向こうもわたしも困るのは当然で。


うまくやっていける子だっているのだと思う。
でも、わたしにはうまくやっていける力なんてない。
みんなに必要としてもらえるような人望もない。
おまけに周りの目がこわくて、すぐにネガティブ思考になる。

それに、男の子は苦手だ。
一度嫌な思いをしたら、簡単には好きになれない。


もうどうしていいかわからない。
だから、このどうしようもない気持ちを、そのまま。
わたしにできる精一杯の言葉で、伝えたいと思った。
涙が出たとしても。


「みんながこわくて……ひどいこと、言って……ごめんなさい……」


後半はもう、半分泣いていて、うまく声にできたかわからなかった。
止めようと思っても溢れてくる涙のせいで、わたしはそれ以上なにも話せなかった。

みんながどんな顔をしているのか見る余裕なんてない。
静かになった教室に、変な空気だけが流れている。

わたしは目元を押さえて椅子に座った。


そのまま、しばらくしたら担任が来て、わたしの様子に戸惑っていたものの「なんでもないです」と首を振ると、そっとしておいてくれた。

こんなことでなにかが変わるとは思えない。
それでも、わたしにとっては小さくても大きな一歩だった。