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もうだめだ。完全に終わった。

アイドルを目指してる人たちの前で、アイドルをプロデュースする立場として転校してきたわたしが、一番言ってはいけないことを言ってしまった。

ずっと思っていたけど、決して口にはしなかった。
他の人には言ってもいいかもしれないけど、彼らには駄目だ。絶対に。


荷物も全部教室に置いてきた。
……このまま帰ってもいいかな。今日ぐらいべつに、いいんじゃないだろうか。教室に戻る勇気もないし。


あてもなく歩いて気が付くと、目の前に噴水。
いつの間にか外にでていたらしい。
足元を見ると上履きのままだった。


「ぷか、ぷか♪ またおあいしましたね。『みずあびなかま』さん……♪」


よく見ると噴水の中にだれかいる。
普通に考えたらおかしなことなんだけど、わたしも噴水に浸かったことがあるから驚きはしない。

この人は確か。


「おちかづきのしるしに『これ』をあげましょう〜……♪」


そう言って、彼はどこからかぬいぐるみを取り出した。
よくわからないまま差し出されたそれを受け取る。


「メンダコ……」
「そうです。しってるんですね〜?」


彼は嬉しそうだった。


「『ちょうちんあんこう』もありますけど、あなたには『めんだこ』がぴったりです」


どういう意味だろう。
どっちも深海生物だ。

彼がメンダコを選んだ理由がよくわからないけど、
抱きしめてみるとふわふわしていてちょっと心が落ち着いた。

暗い海の底は、煩わしいことなんて一つもなくて、快適に違いない。


「深海は、静かで生きやすそうです」
「そんなことないですよ〜? ずっと『よる』みたいですし、『よる』の『うみ』はこわいです」


彼はそう言って小さく首を振って目を伏せた。


「わたしは、どこにいても、息がしづらいです。居場所なんてどこにもない。願ったら簡単にわたしだけの居場所ができればいいのに」


噴水の横に座り込んでぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
わたしだけの居心地のいい居場所。
すべてが許されるそんな場所があれば。