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「はい、これ〜」


隣の席から腕をつつかれる。
なにかと思って横を見ると、凛月が紙の束を持ってわたしをつんつんしていた。


「……レポート?」


なんだか懐かしい。しわしわだけど。
でも文字はなんとか読み取れる。
これだけの枚数をもう一度書き直すのも面倒だし、一度先生に見せてみようかな。

受け取ろうと思って手を伸ばすと、すっとレポートをひっこめられる。
わたしの手は空気を掴んだ。


「ねぇ、なんで無視したの」
「え?」


凛月はわたしではなくレポートをじっと見つめている。
なんのことだかわからない。


「花火のとき、いたでしょ。ナッちゃんから聞いて探したらさ、名前がいたから……手振ってあげたのに」


そこで思い出した。

そういえば花火大会のとき、凛月と目が合った気がする。
手を振ってくれたことは知らなかったけど。
わたしに気づいてたんだ。

確かに無視した。
だって凛月と目が合ったからってどう反応すればいいっていうんだ。


機嫌が悪そうな凛月の横顔を見て、正直に言うべきか悩んだ。
でも無視したなんて言ったら、余計に機嫌が悪くなりそう。
凛月は、初めてまともに話せるようになった人だし。


「気が付かなかったです」
「ふ〜ん……そう」


どっちの選択肢を選んでも機嫌は直らないみたいだ。
凛月はそのまま机に突っ伏した。
いつものように眠ってしまうらしい。

彼の手にはまだレポートがあるんだけど。


「あの、レポート……」
「……なに?返してほしいの?だったら血吸わせてよ。膝枕して抱き枕になって静かに眠らせて……名前のことなんてもう知らない」


え。
わたしが思っている以上に、機嫌が悪くなっていた。
そんなにひどいことをしてしまったのか。

こうしてわたしのレポートは人質にとられた。