「おまえ、見たことない顔だな!おまえも転校生ってやつか?うちの制服着てるもんな」
この人は、わたしに話しかけているのだろうか。
周りを見ても、わたししかいないからおそらくわたしで合っている。
青いパーカーの彼はなぜか楽しそうだった。
「だれですか」
どう考えても怪しい。
ここの生徒だろうか。
「人に聞く前に少しは自分で考えてみろよ。おれもおまえがだれなのか考えるから!待って!答えはまだ言わないで!妄想させて!」
おまけによく舌が回る人だった。
こっちが口を開く前に一人で理解して、次から次に言葉がでてくる。
わたしは頭の回転が遅いから考える時間をもらえるのはありがたいのだけど。
「う〜ん、ただの転校生じゃ面白くないし。わかった!おまえ宇宙人だな!うっちゅ〜☆久しぶり!正確には大宇宙〜☆だったっけ?おれをアブダクションしにきたのか!?こりない奴だな!」
わたしが話す余地もなく、勝手に話が進んでいった。
どうしよう。わたしこの人と会話できる自信がない。
見た目はそこまで変わった人じゃないのに。
この学校は変な人が多い気がする。
「違います。違うんです」
話すタイミングを失ったわたしは、いまだにあれやこれや妄想している彼に向かって首を振った。からかって遊ばれているのかもしれないけど、このまま彼のペースに合わせていると本当に宇宙人にされてしまう。
でも、改めて考えてみると、わたしは一体なんなのだろう。
転校生……ではあるけど、転校してすぐに不登校になったし。
まだこの学校の生徒らしいことはなにもしていない。
「わたしは……だれなんでしょう」
自分でもよくわからなくなって考え込んだ。
わたしは、なにになりたいの?
なにに、なりたかったの。
「おれもおれがだれかわかんない!わかんないっていうか思い出せないな!おまえと一緒だ!わははは☆なんか面白いな!おまえも変わってて面白いぞ☆」
一緒にされるのは複雑な心境だけど、周りから見たらわたしも変人かもしれない。
「どこに行くんですか?」
道に迷ったという言葉が聞こえた気がするので、この人はきっと迷子だ。
不思議の国の住人みたいな彼は、急に夢から醒めたような真面目な顔になる。
「ん〜?夢ノ咲学院に行きたいんだけど」
「……ゆ、夢ノ咲学院はここです」
言っていいものか悩んでから躊躇いつつ答えた。
どこまで本当なのかわからない。
一瞬、わざと迷ったふりでもしているのかと思った。
わたし、遊ばれてる?
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