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結局あのあと真っ直ぐ家に帰って、自分の部屋に閉じこもった。

ベッドの上で寝転んでいると、いままであった嫌なこととか、あのときこうしておけばよかった、やらなければよかったなんていう後悔が永遠と頭の中を行ったり来たりして、ゆっくり眠ることもできない。

すぐに忘れて前向きに生きられたら、楽なのに。


それからしばらく普通に夏休みが過ぎていった。思い出らしい思い出もできず、できたことといったら相変わらず嫌なことばかりだった。確認テストの結果も良くなかったし。

そんなときに、兄から花火大会に誘われたんだ。


『仕事を終わらせてすぐに行くから、名前は会場で待っててくれる?』


兄はやっぱり忙しそうで、そのやりとりも電話でのことだった。

あまり乗り気ではなかったけど、こうやってわたしのことを考えてくれるのは家族ぐらいなので、すぐに頷いた。忙しいのに、わたしのために時間を作ってくれるんだ。そう思うと、嬉しくて。

嬉しかったのに。


*


目の前には人、人、人……
この暑さの中、よくここまで人が集まるものだなあ、と人の群れを見て思う。

陽が沈み始めて、屋台の灯りが綺麗だ。
海辺だから、もう少し早く来たら透き通るような海を堪能できたかも。

家族連れ、カップルらしき二人組、いろいろな人が楽しそうにわたしの前を通り過ぎていく。
わたしだって兄と一緒に屋台を見て回っているはずだったのだけど。


『ごめんね。急ぎの仕事が入ったから行けそうにないんだ』
「うん」


家からは少し距離があったもののわざわざここまで来たのに、現地に着いた途端、これだ。
誘われなかったら一人で出歩くことなんて絶対にしない。家にいる間に連絡が欲しかった。兄の隣を歩くのも、それはそれで勇気がいることなんだけど。

兄が来ないということは、このままここにいても一人きり。
一人で屋台を回る気も起きないし、だからといってこのまま帰るのもなんだか悔しい。
だったらここで少し待って、花火を見て帰ってもいいかな、と思った。

人の邪魔にならない静かなところに腰を下ろす。

花火か。
そういえば昔は父と兄と一緒によく見に行った。
暗いところが苦手だったわたしは花火を楽しむどころじゃなかったけど。
懐かしいな。


そんなことを考えながら行き交う人の群れをぼーっと見つめていると、視線の先に見知った顔が。
どこかで見たとかいうレベルではなく、あれはどう考えてもうちの学校の。
しかもクラスメートだ。


「……!」


じっと見つめていたら彼と目が合って、わたしは思わず視線を逸らしてしまった。
どうしてこんなところにいるんだ。
彼がいるということは凛月や、あの苦手な先輩もいるんじゃ。

逃げようと思ったものの、逃げるより先に彼のほうがわたしのところに来てしまった。


「名字ちゃんじゃない? 奇遇ねェ、こんなところで会うなんて♪」


ほんとに奇遇すぎる。