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「ほら、さっきみたいに踊って見せてよ」
「…………」
「かさくんの前で踊ってたでしょぉ?できないの?なんか言ったらどうなのさ?」

「セッちゃん、そのぐらいにしといたら。名前泣きそうなんだけど」


立ち尽くすわたしの足元で凛月が呟く。
この人は、なんでこの状況で寝転んでるんだろう。
おかげでわたしは泣きそう、というよりもう泣いている。


「ほら、泣いちゃった」
「はあ? これくらいで泣かないでくれる? 俺が悪いみたいじゃない」


先輩の顔は見えないけど、心底うざい、といった感じの声音だった。

踊れといわれても困るし、尋問されているみたいなこの状況がつらいし、足元と背後からの視線も痛い。確かにさっきは踊ってしまったけど、あれは自分でも予期していなかったことで、勝手に体が動いた、というか、自分でも不思議だった。


「あ〜、眠い……ねぇ、名前。することないなら俺の枕になってよ」


凛月は相変わらずマイペースで、とてもじゃないけど相手をしている余裕はなかった。
目元の涙を拭うことぐらいしかわたしにはできることがない。


「はァ〜い、そこまで。泉ちゃんも無理強いは駄目よ?女の子には優しくしなきゃ」


急に、ぽん、っと肩にだれかの手が添えられる。
視界の隅で凛月が小さくあくびした。


「そうです。女性を泣かせるなんて紳士のすることではありませんよ、瀬名先輩」
「泣かせるつもりで言ったわけじゃないんだけどぉ? みんなして俺を悪者扱いなんてさぁ。あぁもう、チョ〜うざぁい!」


わたしを挟んで交わされる会話を聞きながら、早く涙を止めようと必死だった。
泣いたら全部許される、なんて思いたくない。
めったに泣くことなんてなかったのに、凛月の前で泣いたあのときから、涙腺が緩くなった気がする。


「おど……」


わたしが口を開くと、それに合わせてぴたっと静かになった。
そんなにしっかり聞く態勢になられると、それはそれで話しにくいんだけど。


「踊りません……もう、踊りません……」


それを言うので精一杯だった。
すると、先輩が腕を組んで目を細める。


「あんた、経験者なの? さっきの動き、素人には見えなかったけど」


そんなことを聞かれるとは思ってもいなかったので、慌てて小さく首を振った。


「真似しただけです」
「真似?」


そう、真似しただけ。
わたしの返答に、先輩は納得がいかないようだった。