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- ナノ -

わたしは父のことも、兄のことも嫌いだ。
わたしにキラキラ輝く大切なモノを与えてくれた。

そしてわたしは当たり前のように、自分もそれをキラキラ輝かせることができると思っていた。

思っていたのに。


*


夏休みが始まって一週間くらいが経った。
わたしは昼間を補講に費やして、家にいるときは一心不乱にレポートを書いた。

夏休みってもっと楽しいものじゃなかったのか。
普通の子にとってはきっとイベントが盛りだくさんで楽しいのだろうけど。
わたしにとってはまるで修行みたいな日々だ。


授業が終わって、いつもならそのまま家に帰るところなんだけど、今日はちょっと寄り道をする。寄り道をするとよくない展開に巻き込まれるのは前回の件で学習済みではある。

でも、このまま放っておくのもなんだか居心地が悪い。

そう、ジャージだ。


噴水事件のときに一年生の男の子から借りたジャージが、わたしの中ではレポートより重くて、これを返さないことには、ゆっくり夜も眠れない。ジャージはもちろん洗って綺麗にたたんで紙袋に入れて、もう返す準備は整っているのだけど、このあとどうすればいいのだろう。


ということで、例のスタジオまで来たわけだ。
ここで出会ったのだから、ここに来る確率が高い。

凛月に預けて渡してもらうという手もあったけど、夏休みに入ったいまでは凛月の居場所もわからないし、そもそもそんなに仲良くないし。


スタジオの扉に手をかけて深呼吸。
だれかがいる保証はない。もしだれかいたとしてもそれが彼だとは限らない。

でもできれば今日中にこの件を終わらせたかった。


「……!」


いた。
あの赤茶色の髪はこの前の男の子で間違いない。

ダンスの練習中のようで、彼以外に人はいなかった。
何度も同じところを練習している。その部分が苦手なのだろうか。
彼の真剣な横顔を見て、そうかアイドルなんだ、と思い出した。

しばらく眺めていると、急に振り返った彼と目が合う。


「あなたは!」


見つかった……と思いながら、そもそも見つけてもらうためにここにきたことを思い出す。今日は逃げている場合じゃない。手に持っているこれを返さなきゃ。