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「並ばなくていいよ、っていつも言ってるのに」


わたしが恐れているのは毎朝行われるコレだ。
どれって、これ。
目の前に広がっているこれ、としかいいようがない。

わたしの前には、玄関に向かって左右に分かれた列が二つ。
この時間のみんなの一体感はどこから生まれてくるんだろう。
全員が揃うのなんて朝の見送りのときだけだ。


「なにか不満があるのか?」
「ありません」


敬人の一言に文句の一つでも言えたらいいんだけど。
そんな度胸があったら、もっと早く解決している。


「それではお嬢様、いってらっしゃいませ」
『いってらっしゃいませ』


敬人に続いてみんなが声を合わせる。
何回されても慣れない。
恥ずかしくて消えてしまいたくなる。


「いってらっしゃい!」
「ばいば〜い」
「早く帰ってきてね」


ところどころ異なる言葉も聞こえてきて、すべてに答えることができないわたしは、頭の中がミキサーでかき混ぜられているような感覚に陥った。ああ、だから苦手だ。

いたたまれなくなってペコペコ頭を下げながら外に出ると、敷地の外に見慣れた黒い車がとまっていた。
いつもぴったりこの時間に迎えに来てくれる。

車の前にはわたしと同じ制服を着た女の子。
彼女はわたしを見て優しく笑ってくれる。


「おはようございます、名前ちゃん」


執事との時間はここまで。
学校でのわたしを見守ってくれるのは、彼女の役目なんです。