厨房を覗くと、泉が仁王立ちで待っていた。
お疲れさま、泉。
無言の圧力がこわいので、おとなしくレオを差し出す。
「王さま!?どこいってたの!朝からいなくなるとほんっとに迷惑なんだけどぉ?」
「お、セナ!うっちゅ〜☆そんな顔するなよ!笑って笑って!」
火に油を注ぐってこういうことをいうんだ。
レオが泉に引っ張られて消えていったので、わたしは忍にお礼を言って、顔を洗いに行く。
すれ違う人が立ち止まって挨拶をしてくれた。
おはようございます、お嬢様。
おはよー!いい天気だね☆
朝がきたんだぜー!
十人十色。一つとして同じものはない。わたしには、賑やかすぎるくらいのきらきらした朝だ。
顔を洗って厨房の前を通ると、泉に捕まった。
「なるくんがもう少し時間かかるらしいけど、先に朝ごはん食べていく?」
嵐を急かすのも悪いので、泉の提案に黙って頷く。わたしがパジャマ姿でもだれも気にしない。
「はい、お嬢様の大好きなフレンチトースト」
泉が運んできてくれたのは甘い香りのするフレンチトースト。
彼が作るフレンチトーストはわたしのお気に入りなの。
「おいしそう」
「俺が作ったんだから美味しいに決まってるでしょぉ?王さまが失踪したせいで手間取ったけど」
その王さまがどうなったか気になるところだけど、聞かないほうが身のためだ。
手を合わせて、いただきます。
口に運ぼうとしたところで、隣からやけに強い視線を感じる。
「いいなぁ……ね、お嬢様、俺にも一口ちょーだい。あ〜んってしてよ♪」
甘い声でおねだりされても、これはわたしのものだから譲れないよ、凛月。
普段は“お嬢様”なんて絶対言わないのに、こういうときはいい子のふりをする。
膝枕を強要されて、断れないわたしの気持ちがわかる?
「ちょっと、くまくん!?あんたの朝ごはんじゃないんだけどぉ!」
泉が凛月を追い払おうとする。
エサを求めて迷い込んだ猫を追い払うコックさんみたいだ。
なんだか新しい物語が始まりそう。
「いいじゃん。これから寝るってときに無理やり起こしといてさぁ……セッちゃん、文句しか言わないんだよ。ここにいるだけでもすごいんだから、もっと褒めて欲しいよねぇ。ね、お嬢様……♪」
同意を求められても、わたしは味方になれない。
だれかを特別扱いすることはできないの。
でもフレンチトーストを作ってくれる人と、それを奪おうとしてくる人なら、ねえ?
どっちが大切かなんて、あなたにもわかるでしょう?
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