ここは、夢ノ咲幼稚園ねこ組の教室。
わたしはこのクラスの担任である椚先生のもとで、新人幼稚園教諭としてお仕事をしています。
「名字さん」
椚先生から無言の圧力が一つ。はい、先生。何も言わずともわかります。
突然ですが、わたしはいまから人探しに向かいます。
なぜかというと、急に姿を消した生徒が戻ってこないからです。
彼の名前は月永レオくん。
さて、探しに行きましょう。
園庭にでると、レオくんが隠れていそうな場所を見て回った。
神出鬼没なので、普通はこんなところにいないだろう、と思うようなところにいたりする。
ポイントは、オレンジ色の髪。あと紙が散らばってたりするとなお探しやすい。高いところより地面に近いところにいることが多いかな。
「ふんふ〜ん♪」
あ、みつけた。園庭の茂みの影に隠れた小人が一人。鼻歌うたってるし。
離れたところから見るとひなたぼっこしてる子猫みたいで可愛らしい。
どこにでも寝転がるから、すぐ制服が砂っぽくなるの。お母さん大変だろうな。
「レオくん、みっけ。また地面とお友達になったの?」
後ろから声をかける。小さな足がぱたぱた動く。
「う〜ん、なんかちがうな?ここは、たんたんたたーん!こうだ!」
「あれ、レオくーん?」
相当入り込んでるな。
わたしの声なんて聞こえてないみたい。
こうなるとしばらく戻ってこないから困る。もうお昼だし、みんな待ってるよ。
仕方ない。
「よいしょ」
レオくんの隣に並んで寝転ぶ。
同じ視線になって彼の手元を覗き込むと、地面に音符が散らばっていた。
彼の手にはペンの代わりに小枝が握りしめられている。
やっぱり作曲中だった。
「お歌の調子はどんな感じ?」
軽い感じで聞いてみると、こちらには目もくれず答えが返ってくる。
「いいかんじだ!きょうもインスピレーションがわきあがる!あ、名前せんせい、うっちゅ〜☆」
「うっちゅ〜!やっと気づいてくれたね」
途中でわたしを見ていつもの挨拶をくれる。
レオくんに付き合うのもだんだん慣れてきた。
四月にここに来て、椚先生に初めて与えられたミッションも、レオくんを探すことだった。
「せんせい、こんなところでなにしてるんだ?」
それはわたしのセリフなんだけどな。
「お昼だから教室に戻ろっか。お腹空いたね」
レオくんの意識がわたしに向いている間に本題に入る。気を抜いたらまた作曲に戻ってしまうから。
でも、レオくんは少し考えて首を横に振った。
「ん〜?まって!もうすこしだけ!あいつらがいなくなるまえに!」
「あいつら?」
だれのことだろう。ここにはレオくん以外だれもいない、のに。
あ。
「そういうことか」
レオくんの視線の先には小さいアリさんたちが列をなしていた。
なるほど、これを観察していたのか。
地面に書いてある音符とアリの行列が並行している。
意外なところから音楽が生まれるんだね。
「アリさんもそろそろお昼じゃないかな。あそこにおうちがあるからまた会えるよ」
「そっか!じゃあ、またあとでなー!」
大人しく引いてくれてよかった。
アリさんとお別れしたあと、レオくんをつれて教室に戻る。
今日も幼稚園は平和です。
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