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授業が終わって名前が慌てて帰る準備をすると、凛月は机に突っ伏したまま動かなかった。
いつもの凛月なら名前のことを放って真緒のところに行ったり、レッスンへ向かってしまうのに。

焦ることなくゆっくり準備を終え、カバンを肩にかけると、名前は凛月を見つめる。今日はこのままここで寝るつもりだろうか。凛月がここにいるのであれば、名前は動くつもりなんてない。

「……ん……用意できたの」
「うん」

しかし名前が困ったのも数十秒のことで、凛月は急に顔を上げてわざとらしくあくびをした。ペラペラのカバンを持って席を立つ。

「……熱はないよね」
「ない」

今日の名前は強がりではなく、本当に良好だった。


*


レッスンが始まると名前はスタジオの隅に座ってあやとりを始めた。最近のマイブームだ。同じ年齢の子と遊ぶ機会がないので、一人でしか遊んだことはないが、だれより上手な自信がある。

「はい、一旦休憩するよぉ」

泉の言葉で全員の緊張感が解ける。

ふらふらと近づいてきた凛月が、名前の隣に寝転んだ。あやとりをしていた手元から視線を凛月に移すと、凛月は名前の手をじっとみている。

「なにそれ」
「あまのがわ、だよ」
「ふーん」

凛月が声をかけてくれたことが嬉しくて、名前は「これはね」と次から次に難易度の高いものを作って凛月に見せた。凛月は「へぇ」「そう」と答えながら、名前のそばで寝転んだまま話を聞いている。

「なんかあったの、あの兄妹」

幽霊を見るような目で兄妹を見た後、泉が嵐に声をかけた。朔間兄妹の複雑な関係は、校内でも有名だ。同じユニットの泉たちは特に接点が深い。だからこそ、今日の凛月と名前の距離感に違和感があることに気づいた。

「あら、泉ちゃんも気づいたの?それがねェ、今朝からずっとあんな感じなの。ぎこちないんだけど、いつもと何かが違うのよ。ほんとの兄妹みたいで可愛いわよねェ♪」
「ほんとの兄妹でしょぉ」

同じクラスで授業を受けていた嵐は、興奮した様子で頬に手を当てる。兄妹の間に流れる空気が変わったことに、動揺しつつも嬉々として受け入れているようだ。

「りつにいもやる?これ、とって」

名前が糸をかけた手を凛月に差し出す。お兄ちゃんと遊ぶのは、病院にいたころからの夢だった。

「え、やだ。めんどい」
「あ、う……」

ぴしゃっと断られて名前は体も心も縮こまった。
近くで見ているとハラハラさせられる面も多々あるが、二人の関係が明るい方へと向かっていることに間違いはなかった。