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「だから言ったんだ、名前を夢ノ咲には行かせたくないって!母さんが反対したら僕だって名前を止めたよ」
「あら、聖夜くんも夢ノ咲の卒業生だったらわかるでしょ。あそこは危ない場所じゃないわ」
「母さんはいつもそうやって呑気だから」
「パパだって賛成してたもの。ねぇ、パパ?」


扉を閉めていても聞こえてくる家族の会話。そこに話の当事者がいないのに、勝手に進んでいく話。お兄ちゃんが喚いているのはいつものこと。今回は特に騒ぐだろうなと、事前に予想はしていた。

あれから盗難や傷害未遂の件が教師に伝わり、その日のうちに家族にも説明があった。
わたしは迎えに来たお父さんとお兄ちゃんに半ば強制的に連れられ帰宅。車に乗り込むまで凛月はわたしの側から離れなかった。学校側とはすべてお父さんとお兄ちゃんの二人で話をすることになり、わたしはしばらく学校を休むことになった。

正直なところあんなことがあったのに、翌日もノコノコと登校できるような心的余裕はわたしには備えられていなかったので、お兄ちゃんの手で休みの届けが提出されたのには、珍しくホッとした。


「名前、もうこのまま退学してずっと僕のそばにいて。大丈夫。僕が守ってあげるからね」


ただしお兄ちゃんはこのとおり、以前にも増して圧が強く、わたしが休みの間はできる限り家にいると言って、ユニットメンバーと一揉めしたぐらい煩かった。すべて自分の部屋にいて聞こえてきた情報であって、あれからわたしは部屋の外に出ていない。

学校を休んで2日目。スマホにはいつのまにか着信履歴が溜まっていた。凛月と月永先輩と瀬名先輩、あと知らない番号から。どうやって折り返したらいいかわからないし、タイミングが合わなくてとりあえず放置している。初日は凛月から一時間刻みに電話があってちょっとこわかった。

いろいろと落ち着いたら学校に通うつもりだ。退学するために。


*


目黒日陰に退学処分がでたと聞いたのは、自宅療養から五日目のことだった。これもまた家族の会話から得た情報だけど。学校側から退学命令がでたということは、本人は在籍することを望んでいたのだろう。

停学処分を拒否した目黒日陰は退学を余儀なくされ、現在は自宅待機。近いうちに正式な手続きがおりて、退学になるという。

まさかわたしよりも先に退学する人がでるなんて。
退学したくない人が去って、退学を望むわたしは去ることができない。
世の中は大抵のことがうまくいかない。


*


一週間が経って、わたしの療養期間も終わった。今日から学校に通う。制服に着替えて、鞄を持って、靴を履いたら玄関のドアノブを握る。
すべてが順調に元に戻るかと思ったのに。


「…………」


駄目だ。足が震える。
これは条件反射のようなもの。
一週間引きこもったくらいでこんなに怯えるなんて。数ヶ月前のわたしは、退学を決意して学校に向かった。あのときに比べたら身軽なはずなのに。


――わたしがいなくても。


時計の針は動いているし、朝が来て夜が来て、寝ては覚める人たち、世界は何事もなく回っている。

でも、わたしの世界の時計は止まってしまっている。
学校に行かないと。
外の世界のだれかにとってわたしは必要ない存在かもしれないけれど、わたしにとってあの場所は必要なものなんだ。

ドアを開けると光が差し込んできた。
眩しい。外の世界の光を浴びるのは久しぶりだ。


「名前」


名前を呼ばれて呼吸が止まる。