だれがなんと言おうとわたしは家に帰りたいのです。
思えば小学生の頃から一人で帰宅部を作ってしまうぐらいに、わたしにとって家に帰ることが人生のすべてでした。家が好きなわけではありません。正直に言ってしまうと、学校にいるのが嫌だったのです。逃げ出したかったのです。わたしは、社交性がなく協調性もない上に、友達や仲間という存在を作るのがとても苦手でした。
高校に進学したものの、わたしの学校嫌いは治ることを知らず、逆に悪化していくばかりでした。二年生になるタイミングで、別の高校に転校したのは、わたしの意思ではなく家族の勧めでした。
「夢ノ咲学院……」
なぜ学校嫌いのわたしがわざわざ別の高校に転校しなくてはならないのでしょう。家族はわたしが今の学校に不満があると思っているようですが、学校自体に問題があるわけではないのです。これは精神的なことが大きく関与しているのであって、場所を変えただけではどうにもなりません。
しかも、聞くところによるとわたしは新設されるプロデュース課のテストケースとして、実験的に扱われるそうなのです。なんでそんな面倒なことを引き受けたりしたのでしょう。言っておきますがわたしはまだ自分の口から「転校する」なんて言っていません。断じて。
「ふふふ〜ん♪」
「…………」
そして始まった生活がこれです。目前に生み出されていく音符の嵐。
わたしのために用意された机のはずなのに、着席しているわたしには目もくれず、夢中で音符を走らせているのは、同じクラスの男子生徒。えーっと、名前は確かレオくん。珍しい名前だったので覚えています。彼から聞いたわけではありません。先生から渡されたクラス名簿で覚えたものです。どうやらわたしはアイドルをプロデュースすることになってしまいました。
「湧いてくる湧いてくる!今世紀最大の名曲だ!これは歴史に残るぞ……☆」
歴史に残る前にわたしの脳裏に焼き付けられそうなんですが。
彼には何を話しかけても通じません。なぜそんなことがわかるかって?
もう何度も声をかけたからです。聞く耳など持ってもらえませんでした。
あの、ここわたしの席なんです。あなたはだれですか。つきながれおくんですか。同じクラスですね。あなたの席はどこなんでしょう。とりあえずわたしの机に落書きをするのはやめてもらってもいいでしょうか。それ油性ペンですよね。消えませんよ。聞いてますか。おい、コラ、聞け。
無理でした。
ここは、アイドルの学び舎などではありません。
猛獣珍獣が集うサファ〇パークです。
こうなったらわたしに残されている選択肢は一つです。
さあ、家に帰りましょう。
←