×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

「名前、遅くない?」


名前が忘れ物をした、と言って駆けていってからもう十五分くらい経っていた。取りに戻るだけならそんなに時間はかからないだろう。スタジオまで数分あればじゅんぶん。


「またどっかふらふらしてんじゃないよねぇ」


セッちゃんが腕を組んで眉間にしわを寄せる。なんだかんだ言いつつも辛抱強く待ってるところを見ると、名前のことを気にしているようだった。セッちゃんはこう見えて年下の面倒見がいいから、きっと名前のことも気に入ってるんじゃないかな〜?


「ちょっと電話してみる」


それにしても遅いので、この前教えてもらったばかりの名前の電話番号を探す。もっと早く教えてほしかったのに、名前も俺も奥手だからさぁ。


「……つながらない」


十回コールしても出なかった。「はい」といういつもの弱々しい声が聞こえることを期待していたのに、聞こえるのはルルル……という無機質な機械音だけ。


「あいつ、スマホの使い方わかってんの?」
「それはだいぶ怪しいけど、教えたばっかだし」


さすがに名前だってそれぐらいわかるはず。うーん、断定できないけど。俺の常識と名前の常識じゃ、違うことが多そうだし。だからこそわからないことは全部俺が教えてあげたいんだよねぇ。


「おまえら、どうしたんだ?」
「あ、クロ。そっちに名前はいなかったか?さっき忘れものを取りに行ったんだけど、戻ってこないんだよ」


王さまがスタジオの方角を示す。


「こっちにはだれもいなかったな。嬢ちゃんが戻ったのはスタジオだろ?」


スタジオ……だよね。


「待って、名前は何も言ってなかった……」


どこに忘れ物をしたのか、聞いてなかった。さっきまでスタジオにいたから、てっきりスタジオに忘れ物をしたとばかり思ってた。

じゃあ名前は今どこにいるの?なんで電話にでないんだろう。でないんじゃなくて、でられないとか。
だって俺は。


――「何かあったら俺に電話してね」


約束をした。名前は俺との約束は絶対に守ってくれる。
嫌な予感しかしない。名前。俺には名前がいないとだめなのに。


「ちょっと行ってくる」
「くまくん!」


走り出した俺の背中に、セッちゃんの呼び声が追いかける。
向かう場所は一つだった。