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「りつにい待って」

トトトトト……
すたすたすた

構内を歩く凛月の背後を名前が小さな足で追いかける。そもそも歩幅が違うので追いつくどころか幅が広がるばかりだ。通園バッグと黄色い帽子をそれぞれ手で押さえて歩く名前は、兄に置いていかれないように必死だった。
通り過ぎる生徒が何事かと視線を移すが、だれも手を貸すようなことはしない。

「あ、ま〜くんだ」

帰宅しようとしていた凛月の視界に幼馴染の姿が入って足を止める。生徒会の仕事は終わったのだろうか。この時間から部活の活動もないだろうし、おそらく帰宅するところだろう。

「ま〜くん〜〜一緒に帰ろ〜」

手を振って声をかけると、真緒は凛月を見てから、その背後に視線を移した。小さな影が凛月の後ろの方にある。

「凛月。いいけど、名前はいいのか?」

真緒に言われて気づいた。振り返ると自分の後を追って駆けてくる小さな少女が目に入った。

「そっか、いたんだ」

妹が一緒にいるという現実に慣れない。実感がない、と言ったほうが正しかった。幼い妹は生まれた時からいつも病院にいて、凛月とはあまり会う機会がなかった。

「名前、大丈夫か?おぶってやろうか?」

凛月が真緒を捕まえている間に、名前がやっと追いついてきた。小さな体で大きく息をしながら、名前は凛月の隣に並んで真緒を見上げた。

「まお……ううん、自分で歩く」

名前は凛月の様子を横目で窺ってから首を横に振った。息も切れているし、まだ学校の外にすら出ていないのに、家までの道のりは遠い。それに凛月がこの状態だと、真緒が手を差し伸べるしか選択肢がなかった。

「無理すんなよ。うちまで歩くの大変だろ。ほら、乗れって」

名前に向かって背中を向けて腰を下ろすと、凛月が先に口を開く。

「いいよ、ま〜くん。甘やかさないで。慣れたらどうすんの。毎日連れてくるの俺なんだけど」
「それ、おまえがいうか?」

二人のやりとりを聞いて、名前は慌てて背筋を伸ばす。

「けんかしないで……まお、手つないで」
「おう、いいぞ!ゆっくり歩こうな」
「うん」

名前が断っても、真緒が納得する性格ではないことを知っていたので、おんぶよりも簡単な方法を選んだ。これならきっと凛月も怒らない。真緒と凛月が喧嘩することもないし、だれも不満に思うことはないだろう。

歩き出した二人の後ろ姿に、凛月は特に声をかけることはしなかった。