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実行するならすぐに。気持ちが変わらないうちに、ということで。


場所はわたしの自宅の玄関前。
真緒のアイコンタクトでわたしは息を止める。このまま空気と同化して消えてしまってもいい。
ピンポーン
という軽い電子音が鳴り、しばらくの沈黙の後、インターホン越しにだれかの息遣いが聞こえた。

『はい』
「あ、衣更です」

緊張感が漂う中、真緒がインターホンに体を寄せる。わずかな衣擦れの音が聞こえて、お兄ちゃんが体を強張らせたことがわかった。

『……なに?』

おそらく真緒の制服を見て警戒心が生まれたのだろう。お兄ちゃんは人一倍、夢ノ咲学院の生徒に敏感だ。とりあえず、わたしの姿はまだお兄ちゃんからは見えていないはず。

「回覧板を届けに来ました」

真緒が掲げた手には、適当に見繕ったボードが一枚。貼り付けてあるのは昨日出された課題の用紙。どう見たって偽物だとわかる。

『……待って、行くから』

バレてはいないようだった。
お兄ちゃん、そういうところが甘すぎる。


*

「おい〜っす♪」
「げっ、朔間」

扉が開いた瞬間、待ち構えていた凛月が真緒の前に飛び出した。お兄ちゃんもお兄ちゃんで、反射的に扉を閉めようとしたが、目にも止まらぬ速さで差し出された凛月の足に寄って阻止される。あまりに二人の息が合っていてドラマの一場面みたいだった。

「なんでおまえがここに!」
「お兄さんに会いたかったので〜♪」

嫌悪感を露わにするお兄ちゃんとは裏腹に、凛月は始終楽しそうで、言葉の端々に音符が飛び交っている。

「騙したな!」
「いや、回覧板は嘘なんですけど、伝えたいことがあって来たんですよ……凛月、威嚇するなら下がってろって」

後ろから仲裁に入った真緒が、凛月の襟首を掴んで引き下がらせる。つまみ出された凛月と目が合い、注意するつもりで首を横に振ると、小さくウィンクが返ってきた。もう凛月、ふざけちゃだめ。

「なんなの、名前ならまだ帰って来てないけど」
「名前ならここにいるよ」

真緒に牽制されて一度は引き下がったはずの凛月が、わたしを指差す。少し離れたところで様子を見守っていたわたしは、三人の視線が集まったことにより、いよいよ出ていくしかなくなった。

「……ただい」
「おかえり、名前!どうしたの、大丈夫!?変なことされてない!?早くうちに入って!もう大丈夫だよ、お兄ちゃんがいるからね!」

ただいまの挨拶も言い終わらないうちに、家から飛び出してきたお兄ちゃんの胸に抱きしめられる。鼻の穴が塞がって呼吸ができない。自分で止めるのと、人に止められるのとでは訳が違う。本気で命の危機を感じた。

「話には聞いてたけどだいぶ強烈だな」
「俺はもう慣れたけど」

外野の二人が何か呟いている。
あの、見てないで……二人とも、助けて……。