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「りつにい」

小さく名前を呼ぶ声が聞こえる。夢の中から意識が戻ってきたとき、薄く開いたまぶたの向こう側には、名前がいた。

「……血は止まったの」

寝る前に詰めて上げたティッシュは見当たらない。名前の鼻の下には、まだ少しだけ乾いた血が付いている。

「うん。もうだいじょうぶ」

小さな手で鼻を押さえた名前は、言葉の割に元気がなかった。凛月は目の前にあった名前の手を取る。十以上歳が離れているので、体の大きさの違いになかなか慣れない。こんな小さな手なら、すぐに折ってしまえるだろう。

「名前の手、冷たいじゃん。体温測った?」

凛月もそれほど体温が高いわけではないが、名前はいつも体温が低かった。これで生きているのが不思議なくらい。

「ううん。でもどこも痛くないし、くるしくないよ」

ぶんぶん首を振るので、体温を測りたくないことが凛月にもすぐにわかった。体調不良を気付かれるのを、名前は好まないのだ。凛月の機嫌が悪くなるからかもしれない。

「はあ……じっとして」

言うことを聞かない妹に、本日何度目かわからないため息を吐いて、いつも持参している体温計を取り出す。じっとして、という言葉に従った名前は、ぴくりとも動かない。その間に、強引ではあるが体温を測ってあげる。これは、医者から頼まれたことだ。定期的に体温を測ること。義務のようなものだから、この行為に特別な意味などない。心配なんてしてないの。

「りつにいの手、あったかい」
「そう」

なんとなく繋いだままだった左手を、名前がぎゅっと握り返してくる。嬉しそうな顔をされると、いつもどう返していいかわからない。凛月にとって、この年の離れた妹はとても複雑な存在だった。