「ねえ、なんで結婚するの」
暑い。季節のせいでもあるけど、だいたいは腰に巻き付いた腕のせいだ。
もういい歳のくせに、いつまで甘えるつもりなんだろう。
その腕を叩いて無理やり解いてあげてもいいのに、それをしないわたしも甘いのかな。
「なんでだろうね」
「なんで俺じゃないの?名前は俺と結婚すると思ってた」
じゃあどうしてそれをもっと早く言ってくれなかったの、と心の中で思う。
なんで結婚するって、そりゃあ結婚したいと思ったからだ。
この人となら一緒にいてもいいかなって思ったから。それが凛月じゃなかっただけ。
「いつも俺の面倒見てくれてたのに。名前と一緒にいる時間は俺のほうが長いでしょ?」
「確かに。小さいころから一緒だったもんね」
ほんとに、手のかかる幼馴染だったな。
真緒がいてくれたからよかったけど。わたし一人だったら大変だった。
凛月は結婚相手というより、なかなか自立してくれない息子みたいな存在だ。
だからかな。うん、きっとそうだ。
「凛月、そろそろ離して。浮気になるよ」
「いいじゃん、べつに。ふふ……このまま駆け落ちしちゃう?」
にこやかにそんなことを言って腕の力を強める。
なかなか離してくれない。
ほんとに。変わらないままずっと一緒にいられたらよかったのにね。
わたしだってそれを望んでいた。
「はあ……ほんと。嫌だなぁ」
消え入りそうな声で凛月が呟いた。
17/08/31
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