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「太陽の下で見ると、やっぱり綺麗な髪ね。わたしの太陽さん」


逃げないようにそっと声をかける。
名前は、初めてレオに会った時のことを思いだした。あのときもこうやって、声をかけたのだった。


「話しかけんな。インスピレーションが湧いてきたんだ」


レオは顔を上げなかった。名前の声に肩を震わせただけで、あとは手元の音符に夢中だった。

けれど、名前は彼の尖った態度を気にすることもなく、地に膝を付けてレオと目線を合わせた。久しぶりに会えたことがただ純粋に嬉しかった。声を聴けることも、元気に過ごしていたことも、すべてが名前を高揚させる。


「そうやって作曲してるのね。もっとあなたのことが知りたい。教えて欲しいの、いろいろなことを」
「うるさいな、あっちに行けよ。おれに構ってる時間なんてあるのか?」


もっと他にやることがあるんだろ。
嫌いだと思うほどに好きになるし、好きだと思うほどに嫌いになってしまう。愛はいつでも正反対だ。


「あなたと話す時間が欲しい」


名前がめげずに声をかけると、レオはたまらなくなって勢いよく顔を上げた。そのままの強さで、投げつけるように言葉を吐き捨てる。


「名前のウソツキ!おまえのいうことは信用できない!」


会えない時間が、少しずつ荒んでいく心と共にレオの純粋だった何かを奪っていった。本当なら笑顔で名前を迎えたかったし、彼女が望む通り楽しい話をいくらでも聞かせてあげたかったのに。


「ごめんなさい。傷つけるつもりはなかったの」


怪我をした猫を労わるように、名前はレオの頭を撫でた。レオはその手を振り払いはしなかった。名前の手が触れたことに動揺する。どんな薬よりもレオの心を優しくした。


「名前!」


遠くで敬人が名前を呼んでいる。
もうじき彼がここまで来ると、二人してわかった。


「来るわ。あなたとなら逃げてもいいけど、この距離だと無理そう。ねぇ、聞いて。必ず呼ぶから、また来てね。レオ」


そう言って、名前はレオの頬に自分の手を添えた。触れた肌の温度は一瞬で消えてしまう。名前は急いで敬人のもとへ戻り、レオはその場から動くことができなかった。

頬に触れた手は、初めて名前と出会ったときに感じたものと同じだった。


「名前」


こんなことなら、最初から出会わなければよかったのに。