×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

「なあ、ケイト。名前は?」


山のように積まれた書類の前に、仏頂面の敬人が座っている。彼が現在忙しいということは、レオにだってすぐわかった。

でも、聞かずにはいられなかった。
敬人に聞く以外、名前と連絡をとる方法を思いつかない。名前がいる部屋には許可がない限り近づくことさえできなかった。


「様をつけろ。貴様ごときが近づけるようなお方ではない」


敬人はレオには目もくれず、目が痛くなるような文字の羅列とにらめっこしている。
これでは話にならないとレオは思った。


「もう一ヶ月だ。おれのこと忘れたのかな。また呼ぶっていってたのにな。なにかあったのか?名前は元気なんだろ?」


名前からの呼び出しを待つレオは、母親の帰りを待つ子供のようだった。
彼女がどこでなにをしているのか、気になって夜も眠れない。この屋敷でレオを必要としてくれるのは名前だけだ。

自分の周りを行ったり来たりしているレオに、敬人は深いため息をついて目を伏せた。変わったやつを拾ってしまった、と思う。


「名前は他のことで忙しい。貴様に構っている時間などないのだ。わかったら持ち場に戻れ」


こんな風に突き放されては、これ以上敬人に期待するのも無駄だろう。
名前の話し相手になることが、レオにとっての重要な役目だった。






この屋敷の鐘が夜の十二時に鳴るということを、レオは一人になって初めて知った。
名前の部屋には時計がないので、外で過ごしてようやく気付いたのだった。

しかし、あの鐘の音が、本当はなんのために鳴って、どこから響いているのか、レオにはわからなかった。
そのほかにも、不思議なことはたくさんあったのだけれど。


「あんたって、あの人に呼び出されても話をするだけなんだって?なんのためにここにいるの?」


灰色の髪の彼は、なにかとレオに親切にしてくれた。
一つ一つの言葉に棘が刺さっていることを除けば、根はやさしい人なのかもしれない。


「おまえたちは一体なにをしてるんだ。待って、答えは言うなよ!」
「言うわけないでしょ、大切なことなんだからさぁ。まあでも、そんなんじゃもう二度と呼び出されないかもね」


彼は瀬名泉と名乗った。
泉は、どこか遠くを見るように目を細めて、レオに忠告した。
呼び出されなくなったのは、レオだけではないとわかった。泉の瞳はそういう色をしていた。


「どういう意味だ?なにをしたら名前が呼んでくれる?」


今夜も、敷地内のどこかで重い鐘の音が鳴っている。


「心を求められただけじゃ、ここでは生き残っていけない。形を残すことがすべてだからね。愛されたって意味がないんだよ」


生き残らなくたっていいと思った。
もう一度、名前に会えるならば。