「レオくん!どうしていつもわたしを怒らせるわけ!?」
それはもうわたしとレオくんの間では当たり前のようなやりとりであって、決して夫婦の仲が悪いわけではない。
「ごめんな……妄想が広がってつい」
「つい、で済むと思ってるの!?」
妄想が〜とか宇宙が〜とか、彼の言ってることが理解できないのもいつものことです。
帰宅した瞬間、壁や床が音符で埋め尽くされていたら、だれだってこうなる。人を怒るのも意外と体力を使うんだよ。
「ママ!」
しかし今日はいつもと違った。
床に座っているレオくんと、仁王立ちしているわたしの間に小さな影が飛び込んでくる。
「リオ?」
「パパをおこらないで」
小さな瞳が揺れているのを見て、あ、やってしまったと思った。
「パパとママがなかよくないと、リオ、かなしいよ」
みるみるうちにリオの瞳に涙がたまって、溢れ出した分が床にこぼれ落ちる。
「! ごめんね、リオ。泣かないで」
慌てて頭を撫でてあげると、我慢できなくなったのかわたしの胸に飛び込んできた。
目の前のレオくんと目があう。
「リオ、おれもきをつけるから。ちゃんと紙に書く。ごめんな!心配したよな?」
レオくんがどこにでも作曲するのは、学生時代の頃からずっとで、今に始まったことじゃないのに、わたしもガミガミ言いすぎた。
「ううん。パパはかっこいいからだいすき。ママもつよいからだいすきだよ。だからなかよくして」
ん?
ママを好きな理由が若干引っかかったものの、いつになく真剣な顔で言われたら、わたしもレオくんもおとなしくうなずくしかない。
でも、わたしが怒るよりも、リオの一言のほうがレオくんには響いたみたいだった。
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