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毎晩彼女に呼び出されることを、レオはいつの間にか楽しみにしていた。

レオを呼びに来る敬人は、日に日にため息の数が増えていって、呼び出されるたびに、周りからも突き刺さるような視線を浴びた。
けれど、名前が楽しみにしているなら、そこに足を運ぶだけだ。


「妹さんがいるのね。いいなあ、兄妹って」


その日は、話の流れで家族のことを語った。
これは話してはいけない余計なことだったか、と後悔したが、名前はその笑みを消したりはしなかった。むしろ羨ましそうにレオを見つめた。


「名前は一人っ子なのか?」
「そうね。生まれたときから一人だった。ああ、でも、敬人は兄のような存在かも。気が付いたら、急にすべてを押し付けられて、いつの間にか息苦しい場所にいたの」


聞かせてくれた言葉は決して楽しいものではないのに、名前は優しく笑った。
それは、すべてを諦めてしまった笑顔のようにも見えた。


「妹さんはかわいいでしょ」
「ああ!そりゃあもう、おれの宇宙一かわいい妹だ!」
「そっか。引き離してしまってごめんなさい。きっと妹さんも、あなたと一緒にいたかったでしょうに」


妹と一緒に過ごす日々は、短い人生の中でも一番輝いていた。だれにも否定なんてさせない。自慢の妹だったから。
けれど、名前に引き寄せられたのも、それはそれで悪いことではなかった。


「わたしにはそばにいてくれる人がたくさんいるのにね」


屋敷にいる他の人間を指してのことだろう。レオにとっての妹と、名前にとっての彼らでは、意味合いが異なっている。
どんなに数が多くても、家族の代わりにはならない。


「おまえもひとりなんだろ。おれもひとりだ。おまえがここに呼んでくれないと」


大切なものの重さは、はかりなんかでは測れないからだ。


「やっぱりレオと話してると楽しい!あなたといる夜は特別なの。また呼ぶから、必ず来てね。大好きよ」


あまりにも自然な流れで好きだというから、レオは恥ずかしいと思う余裕もなかった。

彼女が口にした「大好き」は、綿菓子のように軽くてふわふわしているのに、食べてみれば嘘ではないとわかるような、強い力を持っていた。


「おれのセリフをとるなよ」
「ん?」


名前がわざとらしく首をかしげる。
本当はすべてわかっていたのかもしれない。

この日を境に、名前からの呼び出しは途絶えた。