どういうことだか、名前は次の日の夜も、レオを呼び出した。
「この前、歌を口ずさんでた。あれは、なんの曲?」
昨晩と同じように彼女の隣に腰掛けると、休む暇なく質問が飛んでくる。
彼女が口にする「この前」が一体いつのことだか見当がつかない。
「ん〜、どれのことだ?最近作った曲ならたくさんあるけど。どれもまだ納得がいかない」
「作曲出来るの?ということは、あの曲はあなたが作ったのね」
身を乗り出して話に食いついてきた名前は、冒険譚に目を輝かせる子供みたいだった。
そういう反応をされると、嫌な気分はしない。
「まあ、そうだな。おまえ、歌うのが好きなのか」
レオが口ずさんでいたという小さな歌声でさえ耳にいれるぐらいだ。
きっと、歌が好きに違いない。
彼女はどんな声で歌うのだろう。
考えただけで、霊感が湧いてくる。彼女のために作る曲は、どんなメロディだ?
「ううん。歌うのは苦手。でも歌を聴くのは好き。よくみんなが歌ってくれる。創や司の歌声は特にお気に入りなの」
急に聞いたことのない名前をだされて、ただ純粋に面白くないと思った。
楽しみにするのは、自分が話して聞かせることだけでいいのにと。
「おれは?」
「ふふ、歌ってくれるの?聴かせてくれる?」
こういうときの彼女は、レオにとってあまり得意ではない。遊ばれているように感じるからだ。
「おれも歌うのは苦手だ。でも、あいつらのためにいい曲が書きたかった。ん?あいつら?って、だれだっけ」
ふいに、どこか遠くで名前を呼ばれる。
窓の外から聞こえるのは、鳥の鳴き声ぐらい。
「どうしたの、レオ」
「……いや、なにも」
なにを守るために?
だれのために必死になっていたんだ?
それは“思い出す”というより“探している”というほうがしっくりきた。
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