昼間の屋敷には、夜よりも静かな時間が流れている。
広い屋敷のあちこちに、レオと同じような男がいた。庭の剪定をする者、温かい食事を作る者、古びた衣装を繕う者。
けれど、だれ一人としてレオに視線を向ける者はいない。
ここに集められた意味を知らないのは、自分だけなのだと悟った。
「新入りでしょ」
唯一声をかけてきた相手は、腕を組んだまま偉そうな態度でレオを見下ろしてきた。
彼の灰色の髪は、冷たいコンクリートと同じ色をしていた。
「名前さまが拾ってきたって聞いたんだけど?」
「おれは捨て猫じゃないぞ」
名前に「さま」なんて似合わない。
彼女がご主人さまだとは、思いたくなかった。
「あんたみたいな猫がいたらこっちが困るんだけどぉ?ただでさえ野良がたむろってるのにさぁ」
心底うざい、と彼は吐き捨てた。
これ以上は深入りしないほうがいい。
レオだって無用な争いは避けたかった。
昼間は名前がいったとおり、眠る暇など与えられない。
一人一人に持ち場があり、指示された仕事をたんたんとこなすだけだ。
監視の目がないことを幸いに、レオはすぐに仕事を放棄して、薔薇の茂みで作曲に没頭した。
食事は用意されたが、自分で気づかない限り、だれかが運んできてくれるようなことはなかった。
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