「ここに来て」
ぽんぽん、と優しく二回、ベッドの縁をたたく。言われるがままにレオは彼女の隣に腰掛けた。
二人で並んで腰かけても、ずいぶん余裕のあるベッドだ。
一人で眠るのに、この大きさは逆に寂しくなるだけではないか、と思う。
彼女は“話し相手になってほしいだけ”という約束通り、レオの話を真剣に聞いた。
彼女がこっそり枕もとの電気をつけたのは、本当は許されないことだったのかもしれない。
「うっちゅ〜☆だったかな。確かそんな感じ!正確には大宇宙〜☆だったかもしれないけど!」
「なにそれ!聞いたことない!」
やっぱり大袈裟に笑う。
驚くときは体全体で、笑うときは花が揺れるように、レオに合わせて怒るときは頬を膨らませて一緒に怒った。
「未知の世界ね。わくわくしてどきどきする。楽しい!」
「おれにとっては、おまえのほうが未知なんだけど」
それこそ、同じ地球の生き物だとは思えない。レオの言葉に、彼女は大切なことを思い出した。
「ああ、忘れていた。わたしは名前。名前で呼んで」
高くもなく、低くもない声で呟く。
それが彼女の本当の声なのかもしれない。
「そして、あなたは月永くん」
「レオだ。月永レオ」
自分だけ名前で呼ばせるなんてずるい。俺の名前も呼んでほしい。なんて。
いつの間に心を許したのだろう。
まだ彼女と過ごした時間は浅いのに。
「レオくん。素敵な響き。レオって呼んでもいい?」
「許可が必要なのか?めんどくさいな」
「ふふ、必要ないよね、レオ」
想像していたとおり、彼女に名前を呼ばれると、くすぐったくて嬉しくて、それに。
とても懐かしい気がした。
朝が来る前に名前は枕もとの電気を消した。名前もレオも、こんなに長い時間だれかと話をしたのは初めてだった。
夢中になりすぎて、朝が来るということさえ忘れていた。
「もうすぐ明るくなるわ」
窓の外を見た名前は、ちっとも明るくない声でつぶやく。
「ねぇ、少し寝て。昼間は休めないから」
「名前は?」
問いかけても、彼女はぎこちなく笑うだけでうんともすんとも言わなかった。
そのうちに、レオは名前のベッドに横になっていた。
「わたしは好きなだけ眠れる。夜でなければ、いつだって」
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