バレンタイン前日。
今日はリオと約束していたとおり、チョコ作りをする。作ると言っても、溶かしたチョコを型に入れてもう一度固めるだけなんだけど。リオにとってはそれが楽しいみたい。
チョコレートを溶かしながら、リオは嬉しそうに笑った。
「ママはパパのどこがすきなの?」
急に恋する女の子みたいな目をしてリオがわたしを見つめる。
え、ガールズトークするの?リオ、いつの間にか立派な女の子になったんだね。
「ん〜……どこだろう」
対するわたしは女の子らしさのかけらも無かった。そもそも女の子っていう年でもないし。
レオくんのどこが好きなんだろう。放っておけないから一緒にいた。それが結婚した理由でもある。でも最近はそれだけじゃない。
「え!?すきなところないの!?パパかわいそう!!」
リオが「どうしよう!パパになんて言おう!?」と呟きながら、一人で焦っていた。
なに。もしかしてレオくんに頼まれて聞いたの?二人は仲がいいからそういうやりとりが行われていてもおかしくない。
「真っ直ぐなところは好きだよ。自分の信じたものに真っ直ぐすべてをかけられるところとか。パパはいつもリオのこと守ってくれるでしょ?」
「うん!パパは王子様!かっこいい☆」
どちらかというと王様なんだけど。まあ、リオにとっては王子様かな。
「リオは!?リオはどこがすき!?」
わたしの返答に満足したのか、次の質問が降って来る。それはもちろん、
「リオは全部好きだよ」
「えー!?!?パパよりすきってこと!?どうしよう!?パパないちゃうかも!」
やっぱりレオくんが差し出したスパイだったな、と思いながら、慌てているリオを見て自然と笑ってしまう。あとで報告会が開かれるなら、二人の会話を聞いてみたい。
でもね、リオ。わたしだって聞かれてばかりでは終われないよ。
「リオは好きな人いないの?」
娘とこういう話をする日が来るなんて、なんだか嬉しい。いつかリオも素敵な人と結ばれるんだろうなと思うと、嬉しい反面ちょっと切なくなる。
「リオはパパとママがすき!あと、いずみくん!かっこいいから!」
でも彼女の返答はやっぱりまだこどもで正直なところ安心した。
リオは泉くんのこと大好きだもんね。レオくんは「いくらセナでもリオは渡せない!」とか張り合ってるけど。
「じゃあ泉くんにもチョコ作ろっか」
「うん!よろこんでくれるかなー?」
泉くんは素直じゃないところがあるけど、きっと喜んでくれると思うよ。
問題はわたしだ。
どうやってレオくんにチョコを渡そう。
チョコを渡している自分が想像できない。
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