放課後になった。荷物を整えて、席を立つ。盗人疑惑の彼は今日も特に不審な動きはなし。
さあ帰ろう。
と思った途端、校内放送が流れる。
『2Bの名字名前さん。至急スタジオに来てください。繰り返します』
教室に残ったクラスメイトの視線がぱらぱらと集まる。
なに?なんでわたしの名前が。
いや、そんなことより、繰り返さないでほしい。胃に響くから。
早く教室から去らないと、と思い席から離れようとすると、放送の声が急に裏返る。だれかが割り込んで来たみたいだ。
『わっ!え?もう一回?泉ちん、自分で言ったほうが早くにゃいかっ!?』
横からだれかに指示されているのか放送にノイズが混じった。……瀬名先輩、バレバレです。
これは行くまで放送を止めてもらえそうにない。
なぜこんな面倒なことになったんだろう。できる限り目立たず、静かに、だれも気付かないうちに消えていきたいのに。
こうなったら隣の彼に頼るしか。
「凛月もスタジオに行くの?」
勇気をだして問いかけてみると、彼は大きくあくびをして興味がなさそうに首を横に傾げた。
「さぁ?」
まだご機嫌斜めのようだ。
本当は凛月にいろいろ話したいことがあるけど、そんなこと話せる状況じゃない。凛月だったら味方になってくれるかも、なんて。期待しちゃだめだ。
『名字名前さん、至急――』
そうこうしている間も校内放送は続いている。ああ、もうやめて。
できることなら早く学校も辞めさせてほしい。わたしがおかしくなる前に。
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