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ステージ裏につくと、凛月が手を振って出迎えてくれた。


「災難だったねぇ」


にやにや楽しそうに笑ってきたけど、わたしにとっては笑い事じゃない。
決して大げさではなく、真面目に生死にかかわることだ。


「俺の言う通りにしてたら王さまに絡まれることもなかったのに」


確かに初めからここに来ていれば、人前で注目を浴びなくて済んだ。もう後悔しても遅いけど。


「名字先輩、来てくださったんですね!お待ちしておりました♪」


司くんは衣装を調整してもらっているところだった。
同じプロデュース課の彼女と目が合って、お互い無言で小さく頭を下げる。何回か顔は合わせたけど、未だに会話をしたことは一度もない。

それはそうと、凛月に会ったら聞いてみようと思っていた。
今日のこれは一体何なのか。
あの凛月がいつになく真剣な顔をしているから、きっとただ事じゃない。

でも、どうやって聞けばいいのだろう。
そもそも彼らの事情に踏み込めるほど、親しい間柄じゃないし。いつもの癖で悲観的になってしまう。


しばらくステージ上の様子をうかがっていた凛月は、司くんとの話を終えてこちらに近づいてきた。


「名前〜」


目の前に立たれるとなんだか緊張してしまう。見慣れた制服姿ではなく、煌びやかな衣装に身を包んでいるせいか、まるで凛月じゃないみたいだった。アイドルなんて見慣れているはずなのに。


「なにその顔……不安なの?」


視線を上げると、赤い瞳と目が合う。


「ううん」


わたしは首を振った。
不安ではなかった。
疑問ばかり浮かんでくるだけで。


「そっか。じゃあ俺が不安なのかな。名前は見た目のわりに強いもんねぇ。ゴリラだし」


凛月は肩を震わせてくつくつ笑う。
よく見慣れた仕草なのに、いつもとは違ってぎこちなかった。

不安になる原因がステージの上にあるのだとしたら、わたしにできることはなんだろう。


「凛月は、月永先輩のこと待ってたの?」


もしも、失った何かを取り戻すためのステージだとしたら。

――だからもう少しここにいて。

わたしを引き止めたあの人を、わたしが引き止める権利だってあるはずだ。


「俺よりも、セッちゃんのほうがずっと待ってたよ」


凛月の視線を追ってステージに目を移す。
瀬名先輩は、ただ怖いだけじゃないのかもしれない。もちろん、わたしにとっては怖い人だけど。守りたいものがあるから、自分にも他人にも厳しくなってしまうんだ。


「ねぇ、手だして」


急に凛月が自分の手を差し出してそんなことを言った。
わたしは警戒したものの、おそるおそる手を伸ばす。そっと、小さな命に触れるみたいに手を繋がれる。

布越しに凛月の体温が伝わってきてなぜかどうしようもなく苦しくなった。


「俺、おかしくなったのかも。名前のそばにいると、落ち着くんだよね」


顔を上げると優しい瞳と目が合ってしまって、視線を逸らす。きっと深い意味はない。
わたしは静かで余計なことを話さないから、落ち着けるんだ。


「がんばって」


頑張っている人にわざわざかける言葉じゃないと知っていても、それ以外に言葉がでてこなかった。

それでも凛月はわたしに笑いかけてくれる。


「うん、行ってきます」


いってらっしゃい。